H₂O

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セーター


玄関を開けたら、そこには彼がいた。自分よりも背が高いから見上げるような形になる。
「入れて」
明らかに寒そうな様子に、仕方ないな、と体を横にずらした。満足げに微笑んで、彼はいそいそと靴を脱ぐ。ふと見た外の世界は細かい雪が降っていた。
どうりで寒いわけだ、とドアを閉めて、すっかり寒くなってしまった体を暖めるためにこたつへと向かう。
「何か飲む?」
手を洗い終わった彼がキッチンからひょっこり顔をのぞかせた。せっかくだから、と甘えてココアを頼めば、鼻歌が聞こえてくる。
少し経って彼が二つ分のカップを持ってこたつへとやってきた。甘いココアが入った方を渡されて、ありがたくいただく。
あたたかい飲み物で内側からさらにぬくぬくと暖まっていたのに、急に足先が冷たいものに触れて、ぴっ、と鳴いた。すぐさま足を引っ込めれば、いたずらっぽく笑う彼が目の前にいた。
じとー、と見つめれば、彼はまたこちらに触れてこようとする。冷たいからやだ、と言えば、彼は少しだけ寂しそうな顔をして下手くそな泣き真似をした。
「だって、寒いもん」
可愛い子ぶったような表情をされても、これは許せない。せっかく暖まったのだから、とこたつ布団にくるまれば、彼は立ち上がって正面からこちらの後ろへと移動する。
後ろから抱きしめるようにこたつに入り、こちらに体重をかけたりしてじゃれてくる。
しばらく構ってやっているとだんだんと暑くなってきて、着ていたセーターを脱ごうとする。しかし、しっかりホールドされているため、上手くいかない。少しでも動こうとすれば、さらにその腕の抱きしめる強さは強くなる。ぺしぺし、と腕を叩いて合図をすれば、耳元で甘い声が落ちる。
「だーめ」
むっ、と唇を尖らせれば、それに吸い寄せられるように彼の唇が落ちる。ちゅ、と可愛らしいリップ音が鳴り、彼はまた満足げに微笑みながら抱きしめる。
「今日の格好、かわいいから。脱いじゃだーめ」
その一言で脱ぐ気も起きなくなったのだから、完全にこちらの負けだ。ずるい。

11/24/2022, 1:05:56 PM