【たくさんの想い出】
ラムネ味の飴を口に含んで火の花が咲く夜空を見上げた。飴をからころ、と口の中で転がしているとあの夏を思い出す。
私は、近いうちに県外へ転校する。理由は両親の仕事の都合。この田舎の空気とも、仲良くなった親友とも、一週間したらおさらばなのだ。少し感傷的になっていたのを察したのか、親友はにこにことしながら私に言った。
「土曜日、空いてる?花火大会行こうよ。」
花火大会は、引っ越しの前日だった。私が目をぱちぱちとさせていると、
「あれ、空いてなかった?一緒に行きたかったんだけどな〜…」
と言いながら眉を下げるので、とっさに
「いや!空いてるよ。」
と返してしまった。引っ越しの前日だから、荷造りの手伝いやら何やら色々やることがあったはず、だけど、両親も最後の想い出作りくらい許してくれるだろう。
「よかった〜!じゃあ決まりね。私ラムネ飲みたい!」
「またビー玉目当て?炭酸苦手なくせに毎年飲むんだから…」
「うっ…だってビー玉きらきらしててきれいなんだもん…」
「そうやって今年もまた私に『もうむり…お願い飲んでぇ〜』って泣きついて来るんでしょ?まぁ私は炭酸好きだからいいけどさ。」
「うぐぐ…今年はちゃんと飲むんだから!」
他愛もない話だけど、ほぼ毎年行ってた花火大会も、今年で最後なのかと思うと、また寂しくなる。この寂しさを、最後まで親友に悟られたくない。
花火大会当日、私達は色違いの朝顔の浴衣を来て出店を回っていた。たこ焼き、りんご飴、ヨーヨー釣り、的あて…そして、ラムネ。毎年飲んでいたラムネ。私の毎年の想い出が繋がるラムネ。
今年、親友はラムネを一人で飲みきっていた。ちびちびとした一口で、とてもゆっくりだけど、一人で。
「どうだ!飲みきれたぞ!」
そうやって誇らしげに私を見る親友が、なんだか「私はもう一人でもいいんだぞ」って言っているようで、また少し寂しくなる。
「あ、花火始まった。」
親友の声で空を見上げると、夜空に浮かんでいる星をかき消す勢いの火の花が咲く。次々と、夜の黒を様々な色の火の花が埋めては消えていく。それに伴って、私の親友との想い出も浮かんでは消えていく。走馬灯のようだ、と他人事のように思ったが、それは走馬灯よりもずっと暖かいものだから、嫌な気分にはならなかった。
「毎年見てるけど、きれいだね…」
親友がこちらに笑いかけながら言った。
「うん、今年も来てよかった。」
私も笑いかけながら言った。
毎年見ていた景色が、今年でお別れだと思うと、やっぱり少しは寂しいけれど、でも前は向ける。親友とも今生の別れというわけでもないから、そこまで悲観的にならなくても良かったのかもしれない。だって、私の親友との想い出はラムネで思い出せるから。
「あ…」
『土曜日空いてる?里帰りで花火大会行こ!!』
ラムネの味と花火は私の想い出の象徴なのだ。
11/18/2023, 12:36:29 PM