《巡り逢い》
「巡り逢いて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな、ってねー」
「……紫式部か?」
とある日の朝、SHR(ショートホームルーム。朝学活のようなもの)が始まる前。私、熊山明里が放送室に向かって歩きながらふと呟くと、たまたま生徒会に向かっていた蒼戒が(放送室は生徒会室の隣だ)言った。
「あれ蒼戒おはよー。早いねー」
「ああおはよう。じゃなくてなぜ紫式部なんだ?」
「ああいや特に深い意味はないと言うかふと頭に浮かんだだけと言うか」
「なるほどそういうことか……。確か『せっかく久しぶりに逢えたのに、それが貴方だと分かるかどうかのわずかな間にあわただしく帰ってしまわれた。まるで雲間にさっと隠れてしまう夜半の月のように。』という意味だったか」
「さっすが蒼戒。よくそこまで覚えてるねー。私でもちゃんとした意味はうろ覚えなのに」
「ま、まあな……」
照れくさそうに視線を逸らす蒼戒。結構かわいい。とか思っていると。
「そうだ思い出した! なんで紫式部が出てきたかって言うとさっき源氏物語を持った山田先生にすれ違ったからだ!」
紫式部が出てきた理由を思い出す。
「ああ、そういえば次の古文の単元、源氏物語だったか」
「ああそれだー!! っていけないいけない! 放送遅れるー!! じゃ、またあとでね蒼戒!」
私はそう言って走り出す。ヤバいあと2分!
「あ、ああ……。頑張れ」
放送室に飛び込む私の後ろでそんな声が聞こえた。
(終わり)
2025.4.24《巡り逢い》
参考文献 https://ogurasansou.jp.net/columns/hyakunin/2017/10/17/1307/
4/25/2025, 10:32:16 AM