我が家のキッチの大きな窓からは、お隣の庭の季節の移ろいを借景で楽しむことが出来る
季節ごとに変わる色彩や風景は、これ以上写実的には描けない本物の命たちの息遣いを感じられる最高の美術館だ
春には目に鮮やかな緑が際立ち、そこへ集う鳥たちの賑やかなおしゃべりはマチスのコラージュを連想させる
夏には少し生い茂った緑が、その下に懸命に生きようと咲き誇る鮮紅色の花たちを労るように時として影となりその成長を見守っている
夏の遠慮の無い眩しい光を浴びた緑や花たちはまるで、カシニョールの午後の窓に寛ぐ女たちを連想させる
雨の季節には、その激しい雨がまるで定規で引いたような直線を描きながら落ちてくる様は、さながら広重の雨の中を逃げ惑う町民たちがその窓に重なる
秋の柿の葉たちが色付き出す頃には、夏の暑さを避けて現れなかった鳥たちも再び集いはじめ、実りの時期が近いことを嬉しそうに噂しあっている
美しい裸体に絡まる枯れ葉や秋の恵みを連想してミュシャの世界をそこに投影する
冬には窓を開けるまで気づかなかった夜のうちに音もなく降り積もった雪の降りなす銀世界に、感嘆の声をあげつつ、そこはまるで玉堂の水墨画の世界へと一変する
私にとってのこのキッチンの窓は、私だけのための贅沢な美術館である
今朝もまた昨日とは少し違う画を見せてくれている
柿の実の色付きが待ち遠しい
『窓から見える景色』
9/25/2024, 11:35:51 PM