凍雨

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部屋の片隅の棚の奥には古びたスノードームがある
埃を被ったその状態から分かる通り1年に1回触るかどうかを彷徨いている程なのだが、どうにも捨てられない。
そのスノードームを見ているとなんだか目が離せなくって、何度も振っては眺め、振っては眺め、時々舞った埃で鼻をかむ。
ところで、なぜ私がこのスノードームを捨てられないでいるのかと言うと、正直なところ分からない。私自身も考えたことがあるが、すぐ眠くなってしまうからわからない。ただ、ひとつ気づいたことがある。
なんだかそのスノードームの中にいる人形が私によく似ている。しかし、その人形の見た目は全くと言っていい程に私に似ていない。むしろサンタ以外の何物でもない。先程「人形によく似ている」などと言ったが、
それは只々その人形を自分だと思い込んでいるに過ぎない。

あぁ、最後の1週間ですら月曜日は月曜日だな。
そんなこと思いながら制服を気持ちばかり丁寧に着こなしていく。[卒業式練習]などという文字に気だるさを感じつつ、いつも通り開門前に到着するように気をつけて家を出る。
ゆらゆらと降りてくる雪に感謝して歩く、歩く、いろんな事を考えながら歩く。
そろそろサッカーがしたい。
修学旅行もっかい行きたい。
体育大会でコケたのは恥ずかしかったな。
あいつの変顔やっぱり面白いな。
急に思い出し笑いで声が出てしまった。そのせいで通行人に見られた。それぞれに気を取られてまたコケた。
走って逃げるように学校へ向かった。おそらくコケて地面に尻餅着いた所の雪は溶けてるだろう。

まだ誰も居ない教室に入る。教室の中には座るのに最適なヒーターが置いてある。皆そこに座って怒られるから、自分はそれを机で眠るようにして温まっている。
いつものように椅子を持ってきてヒーターに向かって突っ伏す。どうにかしてズボンを乾かせないかとヒーターに当てつつ、その圧倒的な温もりを突っ伏しながら受ける。そして窓に映る先生達の車と銀世界に移り変ったグラウンドを見る。この時間は素晴らしく、最近の学校の楽しみになっている。
ぼうっとしながらあそこらへんは晴れてるな。あれは英語の先生の車だな。とかいった事を考えていたら教室で2人目が入場してくる。この2人目は決まって自分の所属する中の良いグループの一人。こいつもリュックとかをしまってからヒーターにくる。こいつはいっつもヒーターの端に座る。別に指摘などしない。自分も別に座ってるからというものもちろんあるが、そんなことはもうどうでもいい。ただ今はこの「最強グループ」同士で雑談するだけ。ただそれだけ。

卒業式ともなると、緊張はどうしてもしてしまう...と思っていたのに、怖いくらいに緊張しない。いつもの「最強グループ」に聞いてもやっぱり皆緊張していない。頻度が倍になったから?よく分からない。
クラスの皆が教室に集まって、綺麗な花の飾りを胸のポケットの所に取り付けている。壮観というべきか、違和感と言うべきか、どうにもそわそわする。
式も順調に終わり、最後の帰りの会も終わり、普通に帰り、「最強グループ」の打ち上げも予定し、道中で別れてまた後でと言って一人で歩くのだが、
これが非常に怖い。
打ち上げが終わったら?
成人式が終わったら?
怖い。それだけならまだわかるが、家に帰って、いつもならつけていたネクタイを放り投げて私服に変身するのだが、
制服を脱ぎたくないという初めての感覚に出会った。

打ち上げが終わる。一人で歩く。私は久しく感じていなかった愛別離苦を感じる。それも明らかに人生に深く残る苦しみ。全てが終わって、長期休みがあるが、その長期休みは激しかった。いつもの長期休みは「最強グループ」と毎日数時間にも渡るほど通話をしていたはずなのに、今となっては凍りついたように通知が止まっている。

汚さに気づいたのか、はたまた別の理由か、部屋を掃除していた。すると、例のスノードームに気づいた。顔をスノードームから遠ざけながら埃を払い、降ってみる。
雪が振ろうが逆さになろうが表情を崩さぬサンタを見て、私はまた鼻をすすりだした。

(スノー)
(最近羅生門を読みました)

12/12/2025, 4:22:03 PM