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書き置くにはあまりにも堅苦しく、誰かに届けるにはあまりにも刺々しい。残すのも間違っている気がする。
紙と向かい合うときに考えることはいつもそう。誰とも知らない誰かに、「私」を見誤らないでほしいと願うだけ。
ここに書いたことが私の全てではなく、私というものの中のたった一部。割れて落とした、ほんの一欠片。
私を推し量らないで。けれど、私がここに残したことを受け流さないで。

日記と言うにはあまりにもメッセージ性の強い言葉だった。きっと伝えたい事があったのだろう。それとも、どこかの誰かの言葉の引用だろうか?
中古ショップで購入した年季の入った片袖机の引き出しから出てきた、一冊の日記帳。何枚かちぎり取られた跡のあるその本の最初のページに、その言葉は残されていた。罫線の上に並ぶ文字は機械で打ち込まれたような達筆さと正確さで、縦にも横にも列を乱すことなく並んでいる。
しかし、それだけだった。その日記帳に書かれたことは、それだけ。その後のページには、汚れ一つ残されていなかった。
きっと伝えたいことはあったはずだ。けれど、残すことを良しとしなかった。もしくは、このメッセージに書かれたことがすべてなのかもしれない。
そっと表紙を閉じて棚の奥へと戻す。この人の伝えたいことも、この人を知るすべもない。それだけは確かだった。

2/12/2024, 11:54:16 AM