わあ、とため息とも感嘆の声とも区別がつかないような音が私の口から漏れる。それにかぶせるように、ドパアーンと大輪の花が夜空に咲いては消える。屋台通りから離れた土手は、予想通り人はまばら。いるのは保育園児ぐらいの男の子とその親御さんらしき男女。近所の家にかけてあるのか、時折風鈴の高音がかすかにチリンチリンと風に漂っている。
隣に立つ浴衣の幼馴染の耳に口を寄せて、花火綺麗だね、また帰ってきたら観に来ようね、と世間一般の彼女像と寸分違わない囁きをかましてやろうと思った。思ったのは確かなんだ。
でも、私はすんでのところで心の中の停止ボタンを押した。先の見えない現状で、こんなことを言うのはあまりにも無責任だともう一人の私が袖を引っ張ったんだ。
「どうしたの」
「いや、花火きれいだなーって」
人少ないし移動してきよかったねと周りを見回す彼。不自然な挙動はなんとか誤魔化せたらしい。ほっと胸を撫で下ろす。
ねえ、ずっと一緒にいようよ。ずっとそばにいてよ。離れる必要なんてないでしょ? いつでもぎゅーって抱きしめられる距離にいてよ。
赤、赤、黄色と、花火に照らされる彼の顔は、何色でも眩くて、かっこよくて、可愛くて。今から24時間後には、もうこの顔を間近で見られないのだと思うと、ああ、だめだ、泣いちゃいそうだ。
いっそのこと、思ってることを全部吐き出してしまえば楽になるのかもしれない。でも、吐き出したところで、状況は何も変わらないし、きっと私が何も変えない。ううん、それでも今思ってることを伝えたら何かがーー
「それにしても、やっぱりすごいよ」
「え?」
「海外だなんて、これまでの仕事が評価されたってことじゃん。そう思うとなんか俺まで嬉しくなる」
自分のことのように喜んでくれるこの人を裏切ることなんて、私にはできない。だから海外転勤を断るなんて選択肢は、私には元々なかった。
離れるのは、私。
抱きしめ可能圏内から自ら離脱するのも、私。
そんな状況で、ずっと側にいてだなんて言えるはずがない。
7/13/2025, 5:12:05 AM