「クリスタル」
「クリスタル
猫の姿もイイね」
「君のその 茶トラ模様は私の好みだよ」
クリスタルと呼ばれた猫は警戒しながらゆったりと尻尾を動かした
「しかし 残念だね 君はその類稀な美しい色の瞳を変えることが出来なかったらしいね」
茶トラの猫は 最大の警戒態勢で牙を剥いてシャー!と威嚇した
風変わりな衣装を着た老人の足元でパリパリと音が鳴り始めた
「キャー 見て〜 この猫 綺麗な眼をしているよ〜」
老人が見えないのか 通りすがりの女子学生が数人しゃがんで茶トラ猫を囲んだ
「残念だな お前の存在維持能力が効かなくて」
「お前もな 道路の向こう側からは お前はもう 人間に見えているよ」
通行人数名が すっと立つ茶トラの髪をした背が高い若い人が いきなり囲まれて撫でられてる図を見て びっくりしている
「解答を渡せ さすればお前を生かしてやる」
「無理なのは、知っているだろう
誰も私を生かせられない
それに 私が持っている答えには 鍵が掛かっている
私は それを開けられない! 去れ!」
足元の石畳みの間が砂になってさらさらと地面に吸い込まれ始めた
キャー嫌だわ〜 ここ穴が開くわよー!
茶トラの身体がぐらりと傾いて地面に出来た小さな穴に後ろ足が落ちた
通りの反対側では人間が1人突然下半身迄地面に落ちてハマった様に見えた
小賢しい 姿が薄く消え入りそうになりながら老人が地面に吸い込まれ
下から必死で這い出ようともがいている猫の足を掴むと一気に穴に引きずり込んだ
スポンって茶トラ猫は消えた
後には、小さい穴が残った
地面の下で轟音をたてて走って行く地下鉄の真上まで
7/2/2025, 1:38:15 PM