月夜といえばツキヨタケ。
毒の強さではドクツルタケやタマゴテングタケなんかの「猛毒御三家」に及ばないながらも、毎年のきのこ中毒事件の原因菌としてはぶっちぎりのトップを行く毒きのこ。
『今昔物語集』にて憎い相手に盛った「和太利(わたり)」も、これじゃないかと言われているそうな。
この説話集には他にも、尼さんたちが踊り狂うほどおいしい舞茸の話や、谷底に落ちても怪我そっちのけで平茸を取ってくる男の話など、きのこにまつわるエピソードが数多く収められている。みんなどんだけきのこ好きだったん。
と言いつつ私も好きなほうで、なかでも平茸は鍋に欠かせません。
淡いグレーとベージュの中間色、ニュアンスカラーとかくすみカラーとでも言うのか、なんとも上品な色。ほどよい弾力と、淡白で主張しない味。なにより、きのこ特有の匂いがそれほどしないところ。つまり、きのこだけどキノコキノコしてないのだ。鍋だけと言わずほんと重宝する。
でも悲しいかな、うちの近所のスーパーにはまず置いていない(霜降りひらたけとやらはあるけど、なんか口に合わなかった)。しかたなくいつも、ちょっと離れた直売所まで買いに行く。
よその地域では普通に売ってるのかな。だとしたら羨ましい。
ところで夢野久作の作品に『きのこ会議』という短編がある。ドグラ・マグラだの少女地獄だのを書いたのと同じ作者とは思えないくらいのどかな一編(とはいえだいぶシニカル)だけど、とにかくさまざまなきのこが登場してくるので名前を見るだけで面白い。なにより、きのこたちが繰り広げた会議の結末。毒きのこたちにとってはこれぞ不条理の極み、かもしれない。
似た話だと阿川弘之さんの『鱸とおこぜ』も好きな作品だ。
そしてこれにイラストレーターのヒグチユウコさんが挿し絵を描いた。「CIRCUS」展での描き下ろしだ。あまりの美しさにすっかりファンになって、美術館をあとにするのがなんとも名残惜しく、ショップでTシャツやらペンケースやらを買い込んだ。予算オーバーしたので画集は泣く泣く諦めたけれど、やっぱりもう一度見たくて本屋に行った。
無事購入してわくわくしながらページをめくると、あれ、イソップ物語の『卑怯な蝙蝠』? ……なんと、『きのこ会議』は会場限定版にしか収録されていなかったのだ。
がっくり肩を落としたのだった。
なんて不条理、いや理不尽。と言ったら、逆恨みだろうか?
(不条理)
※出だしでわかる通り、「月夜」のお題のとき書きそびれたのを手直し。
実は最初に浮かんだのは大江健三郎の『人間の羊』なんだけど、読み返す気力がわかなかった。
未読の方、興味があればどうぞ。
3/19/2024, 11:16:36 AM