私の左腕には大きな火傷がある。
これは父に熱湯をかけられて出来たものだ。
父は暴力を振るう人だった。
何も言わず殴られ続ける母。
泣いてるだけの妹。
私がどうにかするしかないと思って
間に入って
私も殴られて。
これで2人を守れてると思ってた。
自分のことなどどうでもよかった。
ある日
怒りが頂点に達したのか
父が声を荒らげ、
パスタを作ろうと
コンロで沸かしていた熱湯を
私にかけた。
その夜、
母は部屋で首を吊っていた。
次の日の朝、
私が起きる前に
父が酒を飲んで暴れたようで、
妹の胸に持ち手のギリギリまで刺さったナイフを見た。
その時の喪失感は言い表せないものだった。
くだっとしている妹の手を握る。
当然だが、氷のように冷たい。
何も守れてなかった。
守ってるつもりだっただけで
私のしたことは
全て無意味だったのだ。
家を飛び出し、
嬉しそうにしている通行人の
持っていたものをひったくった。
もうどうでもいい。
中身は漫画だった。
内容は覚えていないが
最初のページの一言が印象的だった。
どんな意味か知らないままなのは
少しもったいないような気もするが
まあいい。
私は廃墟の屋上にいた。
今頃父は家に帰って私がいないことに気づくだろう。
でも関係ない。
フェンスを越え、
肌寒い風を感じる。
遅れてごめん。
今から行くね。
飛び降りようとした時、
あの一言はこういう時に言うんじゃないのかと思い、
踏みとどまる。
深呼吸をして
"Good Midnight!"
と、大声で叫ぶ。
来世は家族で幸せに暮らせますように。
9/10/2024, 12:09:48 PM