とある恋人たちの日常。

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 胸が痛い。
 涙が止まらない。
 
 偶然聞いてしまった、気になる彼が告白される瞬間。驚いて走って逃げてしまった。
 
 だって、彼が〝イエス〟と応えてしまったら耐えられそうにない。
 
 行く宛てもなくバイクを走らせる。
 見慣れない景色が流れて、人がいないところを探してバイクを停めた。
 
 苦しい。苦しいよ。
 
 彼への気持ちが大きくならないように気をつけていたのに。
 こんなに涙でぐしゃぐしゃになるくらい、彼への気持ちが大きくなっていたなんて……。
 
 職業柄もあって彼が誰にでも優しいことなんて分かってる。
 些細なことにも気がついてくれて、それが積み重なって気がついたら目で追う人になっていたの。
 
 なんでもないところで声をかけてくれて、ふざけ合ってくれて、どんどん仲良くなっていた。
 
 途中から彼への気持ちが他の人と違うと気がついたの。
 家族のように大切にしてくれた人たちとは違うポカポカした気持ち。
 〝じゃあね〟と伝えた時の寂しい気持ち。
 
 考えをめぐらせていると、スマホが震えた。画面を見つめると彼からだった。
 
 泣いている声を聞かれたくないから、出ない選択をする。しばらくして静かになり、通知数が表示された。
 
 何度も連絡があれば急ぎの用事かもしれないし、仕事の依頼だったら他の社員に連絡するかもしれない。
 
 そんなことを思いながらスマホと睨めっこしていると、もう一度彼から呼出音が鳴って驚いた。
 
 もしかして、私が逃げたのを見えていたのかな。
 
 通話ボタンを押すか迷った。
 彼からの電話と、二回目の電話に驚いて涙は引っ込んでしまったけれど、まだ涙声なのは間違いない。
 
 またスマホは静かになる。
 
 あまり何度も連絡してくるなんて無かったから、かなりびっくりした。
 
 こんなに何度も連絡してくることに、少しだけ……期待しそうになるよ。
 
 だって私は彼の答えを聞くのをやめて逃げてしまったから。
 
 〝実は付き合うことにしたんだ〟
 
 なんて言うことに、何度も連絡するタイプの人じゃない。
 
 私は、彼の答えをまだ聞いてない。
 そう。
 答えは、まだ。
 
 
 
おわり
 
 
 
四八八、答えは、まだ

9/16/2025, 1:36:44 PM