手をもじもじとさせながら、塚原陽一は、薄らと頬を赤らめて、時折ちらりと彼女の横顔を盗み見た。
窓側の席で頬杖をついている坂木結衣。
陽一がずっと想いを寄せている少女だ。
小学校も中学校も、そして今に至る高校までも一緒のクラスだと言うのに、一度も彼女と言葉を交わしたことがない。
「……好き」
陽一は結衣に近づいて、耳元で囁く。
しかし結衣は眉間の一つ動かさず、黙ってグラウンドを見たままだった。
ぎゅっと陽一は拳を握りしめ、下唇を噛む。
「こんな僕は……嫌いだ」
半透明に透けている自分の身体。
この身体になってから何年経っただろうか。
いや、数えるのが馬鹿らしい。誰にも認知してもらえない、この忌まわしい身体。
好きな相手に『好き』の一言すら伝えられない、呪わしく憎々しい身体 。
彼は両目から涙を零し、俯いた。
その涙が床に落ち、僅かに跳ねる。
結衣は不思議そうに顔を上げ、床を見た。
「……濡れてる?」
6/13/2023, 3:00:59 AM