シオン

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 落ちていく。どこまでも真っ逆さまに。
 助けなんてこない。演奏者くんだって来れない。
 権力者集団の塔の奥には何があるのか、なんて興味本位で進んだら、塔の奥に行った瞬間に落ちた。
 何の引っかかりもなく、落ちていく。
 下なんてないから、どこまでもどこまでも真っ逆さまに。
 風がどんどんボクの横を通り過ぎていくような感覚がする。
 このまま死ぬのかな、なんて思ったけど、どこかに落下しなきゃ死ねない気がして、ということは一生落ち続けるのかもしれないなんて思った時にふわっと何かに着地した。
「大丈夫かい?」
 聞こえた声をボクは知っていた。
「⋯⋯演奏者くん」
「そうだよ」
 いつもの服の後ろから白い羽が生えていた。
「⋯⋯⋯⋯夢?」
「いや、現実。そこら辺は後で説明する」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯なんでここに」
「上から落ちてきたからね。このままだと家の屋根に落ちそうだったから助けようと思って」
 ⋯⋯⋯⋯家の、屋根?
 ユートピアの家の屋根に? ボクの身体が落ちそうだった⋯⋯?
 ボクが落ちたのは塔の奥、つまりユートピアの端なのに、それなのに家の屋根に落ちそうになる?
 位置関係、どうなってるのかも分からないし、演奏者くんが今どういうことなのかも分からないけど。助かったことだけは理解ができたから。
「⋯⋯⋯⋯ありがとう、演奏者くん」
「⋯⋯どういたしまして」
 演奏者くんは穏やかに微笑んだ。

6/18/2024, 3:41:32 PM