『不完全な僕』2023.08.31
家を継いだからには、完璧でなくてはならない。
三代目として、この家を護らなくてはならない。
本来なら兄が家督を継ぐはずだったが夭折してしまい、次男である自分が跡目を継ぐこととなった。
祖父の代からの悲願である、地位の向上を目指すため、今日も大名方に講義をする。
しかし、元々、病がちで憂鬱気味な自分に、そんな重圧に耐え切れるはずもなく。
講義のあと、ゲェゲェとえずいていると、あの方が声をかけてくれた。
「大丈夫か?」
上様の側仕えの彼は、優しく背中をさすってくれた。
「具合が悪いなら、断ってもよかったのだぞ」
そんな気遣いに申し訳なく思ってしまう。
完璧でない自分は、完璧であらなくてはいけない。
弱音が口をついて出てしまったら、
すると彼は、穏やかに笑って、
「この世に完璧な人間なんていない。俺だって、完璧じゃないからな」
そう言った。
何事もそつなくこなし、剣術も一等級で、頭がよく人当たりも良い彼がそう言った。
意外だと思ったが、なんとなく納得してしまい、心が軽くなった。
彼もまた、完璧ではないのだ。
8/31/2023, 11:58:33 AM