真夜子

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【空が泣く】

   近所にある稲荷神社の奥の院にハイキングがてら出かけていったら、晴れているのに空が泣いた。
 キツネの嫁入りだと笑っていたら、ジャラン……と鈴が鳴った。
 驚いてバッと振り返ると、連なる赤い鳥居の奥にしゃがんで神楽鈴を拾っている長い髪の女がいた。
(人の気配なんかしなかったのに……)
 長い髪を地面に落として女は鈴を手にすると、ゆっくりと立ち上がった。黒髪は太ももまで伸びていて、重く、量も多い。
 加えて黒いタートルネックにベージュのロングタイトスカートが更に雰囲気を陰気にする。
 その女は重たい体をゆっくりと気怠げに動かして、階段を上って僕の隣を通り過ぎていった。
(……うっ…)
 女の後ろ姿を見て声を失う。女の尻の辺りから、モフモフとした立派な狐の尻尾が揺れていた。
 僕は怖くなって一目散に来た道を引き返す。

階段を下がりきると本殿と社務所に巫女さん達が居て、青い顔をした僕に気づいて声を掛けてくれた。
「き、狐の尻尾……女の人が……」
 それだけ聞くと、巫女さんは「ああ……またか」と言う顔をして社務所に叫ぶ。
「ちょっと、斎藤さん!鈴木さんに尻尾のキーホルダーつけないでって言ってるでしょう!」
「稲荷神社ですもん、かわいいじゃないですかー!」
 と、巫女装束に狐の尻尾をつけた斎藤さんという巫女さんがケラケラと笑っていた。

9/17/2022, 8:02:35 AM