白井墓守

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『秋恋』

秋に、恋の花が咲く。

コスモスとは、秋の恋の花だ。
とは、いったい誰が言ったことだろうか。

美味しそうな色をした、チョコレートコスモス。
それが何十本も束ねられた花束が、目の前にある。

「なぜ、私にそれを差し出しているのですか?」

「告白、のつもりです」
「意味が分かりません」

伏せた彼の顔の様子が分からない。
手がプルプルと震えていることから、緊張しているのだけは見て取れた。

「相手を間違っていませんか?」
「いいえ、あなたで間違いないです」
「意味が分かりません」

心の底から不思議に思い、私は首を傾げた。

「だって、あなた……」

「私の親友への恋愛相談に、私のところへ来ていたじゃないですか」
 
そう言うとようやく、彼は顔をあげる。
しょんぼりと眉を下げた顔は、まるで小型の愛玩犬のようだ。

「あれは……あなたの恋愛観が、知りたくて。あの、親友さんにも、先に伝えておいて、了承は貰ってます」

「そうですか」 

酷く冷たい言葉が自分の口から出た。
しかし、彼はそれに気が付かない様子で、口を開いた。

「それで、その……告白の返事は?」

「何を言っているんですか? 決まっているじゃないですか」
「じゃあ!」


「――あなたみたいな人は、二度と顔も見たくありません。お断りです」


そう言うと彼は絶望した顔で、その場を去っていった。


「あの子は、私の親友は貴方が好きだったんですよ。私がどれだけ、あの子と貴方が結ばれる事を願っていたか。それを知らなかったとはいえ、彼女に相談していたなど……彼女の気持ちを思えば、私の方こそ胸が締め付けられる想いですわ」


コスモスが秋の恋の花とは、いったい誰が言ったことだろうか。
秋の桜と書く、その花は。その恋は。

桜のように、儚く散っていく。


「これぞ、まさしく、秋恋……なんてね」


おわり



10/9/2025, 7:40:03 PM