誰だって、むちゃくちゃにちぎれた虫の死骸みたいに気持ち悪い願望をもってるはずだ。
それで、それをときどき、無制限に吐き出したくなる時だって、あるはずだ。
僕はただ、あなたにみられることの無い肩を手で包み込んでいる。
ああ、この惨状をあなたにみせつけることができたら……
あなたはなんて言うだろう。
「ここにいるよ」
そう言ってくれるだろうか。
「だいじょうぶだいじょうぶ。
こわくない、こわくない」
そうして、僕の背中から腕を回し、しずかに寄り添ってくれるのだろうか。
あなたの胸は、ちいさいのに、包容力は、母よりあった。
「オイラもアンタがすきだぜ」
あなたは、僕の背骨にかたい頬をすりよせて、僕が見ているか見ていないか関係なく、ゆるく微笑むんだ。
そしてきらめくあなたの瞳で、僕の顔を見あげてくれるんだ。
「……な。だからだいじょうぶだよ」
そう言って、目をとじて、フーッと、笑うみたいに息をはいて、スリスリと頬を……ほんのりとあつい頬を、押し当ててくれるんだ。
僕はただの親善大使で、あなたはあなただ。
だからムリだ。
それがどれだけ悲しいことでも、変わりはしないんだ。
「そもそも、オイラみたいなやつが。
アンタ以外と……こんなふうになれると思うか?」
顎に汗がつたって、足に落ちた。
しずくが冷たくて、あなたの体温が背にはない事を強調した。
「なれる、なれる、あなたはすごくいいひとだ、僕よりも、ずっと」
ごまかすように、まくしたてた。舌をかみそうだった。
「アンタくらいだ。
オイラを“いいヤツだ”なんて言うの」
あなたは黙っていない。あなたは喋ってくれる。あなたは僕を、見てくれる。
あなたは……
僕の言葉は、ながれおちる汗のしずくのように、口に出した途端にひどくなる。
あなたはしばらく僕の背にくっついたまんま、もたれかかってくれていた。
僕はあなたの心地よい重さを背に感じる。
「……アンタをわすれないよ」
あなたは僕からすべてを離して、僕が不安になったら、ポンっと肩に手を置いた。
「ほら。だってオイラ、アンタが言うところのいいヤツだから。
な?安心しなよ」
ああ……あなたはあたたかく微笑んで、あなたはあなたのままで僕を愛せて、僕は僕のままであなたを煩わせない。
あなたが存在する。僕も存在する。
そしてふたりで幸せになる。
そんなエンディングがあったら。
いや、僕らのエンディングが、スクリーンの外にあったなら……あるいは。
僕はあなたの肩を、思いっきり抱きしめられたのかもしれない。
そしてあなたは、春風にふかれた草花のようなさわやかさで、微笑むんだ。
僕は言う「あなたがすきです」。
あなたは目をそらして、ついには顔を下げて、ただひかえめに笑い……
うみの底のさかなが、ちょっとおびれを騒がせたのを、水面から聞いたみたいなほど。ちいさく。
「オイラもすきだぜ。フリスク」
つぶやくんだ。
つぶやいてくれるんだ。
つぶやいてくれたらな。
僕はただ、あなたにみられることのない肩を手に包み込んでいる。ひとり、震えている。
11/6/2024, 11:17:57 AM