シオン

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 権力者が麦わら帽子を被っているのを発見した。
「やぁ、権力者。どうしたんだい、その帽子は」
 そう声をかけると笑顔で答えた。
「えへへ、可愛いでしょ。貰ったんだ」
「……? 誰にだい」
 僕と彼女以外にこの世界にいるのは住人だけだが、住人にそもそも意思はない。迷い子でも来てたのだろうか。
「それはもちろん…………あ」
 嬉しそうに口を開いた彼女は途中で動きを止めた。ハッとした顔でこちらを見つめる。
「…………えっと」
 気まずそうな顔をしながら必死に目を泳がせていて、明らかに口を滑らしてしまったらしいことがバレバレだった。
「…………まぁ、いいよ。素敵な帽子であることに変わりはない」
 僕はそう言って微笑んだ。
「……あはは」
 気まずそうに彼女は笑った。
 僕には言ってはいけないことがあることは知っているけど、無闇に言及させるつもりはない。本当に確信を持ってからそれについて聞くつもりだから。
 だから僕は何も聞かなかったことにした。

8/11/2024, 4:19:59 PM