NoName

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 記憶は幼稚園の頃から残っている。
 いつものように、早くしないと先に行っちゃうわよ、と手を伸ばす君。
 小学校の入学式に呼びに来たときも。
 修学旅行のバスに向かうときも、君はいつも遅れる僕にそう言いながらも手を伸ばしてくれた。
 高校の卒業式も、進路指導の相談のときも。
 これからも、ずっとこんな関係が続けばいいと思っていた。そう願っていた。
 いつだってそう、君は僕をおいていくことはなかった。
 就職活動の説明会も……。

 たまに変化系があったと思い出す。
 早くしないと、他の人にもらわれちゃうわよ?
 なんて、どっちの気持ちが先だったのかもわからないけれど、この関係がとても心地よくて、いつだって君の手を取り一緒に駆け出した。

 言ってほしかった、最後まで。
 でも、君は言わなかったね。

 孫娘の声が、おばあちゃんはどこかと問いかける。
 遠くに行ったんだよと答えて、空を見上げる。

 ──早く来たら、承知しませんよ

 そんな声が聞こえた気がした。

4/8/2023, 10:48:04 AM