とある恋人たちの日常。

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 俺は結構、女難……だとは思う。
 
 お詫びで食事を奢ると言ったら、『デートの誘い』と外堀埋められたり。
 困っていそうだから声掛けた相手に、仲のいい男女を見ていたら『カップルいいな、結婚して』と言われたり。
 
 面白いことが好きだから、拒否しつつも相手のペースに巻き込まれていた。
 楽しいけれど……疲れる。
 
 それぞれが外堀を埋めてくるから、その子たちを大切にしている人からは酷い目にあうし、結構しんどい。
 
 俺の意思はどこへ行ったらいいのやら。
 
 
 
 仕事中だけれど、車の調子が悪くなったから許可をもらって修理屋に行くと、仲良くしている別の彼女がいる。
 
 俺の好きなクリームソーダを好きだと言って笑ってくれる彼女のことは一緒にいて心地が良かった。
 
 その彼女はワーカホリック気味で、外に遊びに行かないからこの都市の楽しいところを知らないと言っていた。
 
 だから、遊びに行こう誘っていたんだよね。
 
 具体的な日時を決めたくて、少し人気の少ないところに呼んで、待ち合わせについて彼女に聞く。
 
「俺、この辺りの日付なら大丈夫なんだけど、どう?」
「えっと……」
 
 彼女はスケジュールを確認してから、パッと顔を上げた。
 
「どの日も大丈夫です! いちばん都合のいい日にしてください」
「え!?」
「時間も!」
 
 そう笑って言ってくれた。
 
 いや、そんなことは当たり前に見えるかもしれないけれど、俺には当たり前じゃなかったんだよ。
 
「じゃあ……この日のこの時間でどう?」
「はい、大丈夫です!」
 
 その後、やわらかく微笑んでくれた。
 
「楽しみにしてますね」
 
 その表情に俺の心はギュッとなる。
 
「あ、そうだ。新しいクリームソーダを出すお店ができたんだって!」
「え、そうなんですか!?」
「そう、新メニューみたい。今度買ってくるね」
「良いんですか!?」
 
 遠慮する言葉を出しつつ、期待の目を向けてくる彼女。俺はその顔を見て可愛いなと思ったんだ。
 
 考えたら、俺の意思が通るのも、俺の意思を汲んでくれるのって彼女くらいじゃない?
 
 ああ、だからかな。
 こんなに惹かれてしまうのは。
 
 意思が無いわけじゃないんだ。
 気を使ってくれる人だと少しずつ知って来たから。
 
 楽しい気持ちで紛れて見えなくなっていた俺の意思。それを探してくれたり、拾ってくれる。
 ただひとりの君。
 
 
 
おわり
 
 
 
二四八、ただひとりの君へ

1/19/2025, 1:44:55 PM