今日はやけに静かだと思いつつ部室のドアを開けると、案の定いるのは尼子一人だった。
「今日はこの二人だけかな?」とやつは言う。「来るつもりがあるなら、皆とっくに来てる時間だしね」
面倒なことになりそうな気配がして、すぐにオレも帰ろうかな、と思ったが、その思惑に気づいたのか、
「依頼はあったよ」とすかさず付け足す。「せっかくだから二人でやらない?」
左の人差し指と中指で挟んだ一枚の紙をチラつかせる。
「探し物? 恋愛相談? それとも他の人間関係?」
それがここに持ち込まれる依頼の大半を占めていた。百歩譲って探し物は手伝ってもいいが、他はお断りだ。しかし、
「いや、ホラー系」と尼子は言った。
「帰るわ」
「夜にゴミ捨て場を漁ってる人がいたから真相をつきとめて欲しいんだって」
「野良猫だな」
「人影を見たらしいよ」
「じゃあ先生かなんかがゴミ捨ててたんだろ」
「多分生徒だって」
「居残り掃除か」
「夜だってば」
尼子は立ち上がると、
「ま、そういうわけだから、調査手伝ってよね」と、部室の鍵を持って出ていこうとした。
普段は団長として後方でにやにやと笑っているだけだが、自分が主体的に動き始めるとすぐこれだ。こいつのやり方は強引なんだ。オレの言うことなんか聞いちゃいない。もう一人誰か来ればそいつに押し付けるのに、なぜこういう時に限って二人なのだろう。
大きなため息が出るほどうんざりしていたが、家に帰ったところで特にやることもない。
「終わったらアイスでも奢るよ」というやつの提案に少し心揺らぐ。
「人を餌付けするな」
悪態をつきながら、何だかんだついて行くことになってしまうのだった。
「二人だけだと、初めて依頼受けた時みたいだね」と言う尼子に、
「十回以上やってるだろ」とつっこまずにはいられなかった。
#二人ぼっち
3/21/2024, 2:32:46 PM