茜色

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見つめられている。
そう思った時にはもう、手遅れだった。

インターホンが鳴ったからと、何の気なしにドアスコープを除いたのが悪かった。
ドアスコープの外では、不気味なほど鮮やかな夕焼けを背景に、二人の男が静かに立っていた。
何だろうと思う間もなく、奴らは顔を上げ、虚な眼でこちらを見つめてきた。

捕まったら恐ろしい目に遭う、逃げなければ、という直感が身体を駆け巡った。
震える手で扉に鍵をかけ、部屋の奥へ逃げる。
すると、訳のわからない叫び声とともに、ガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえてきた。

あまりの恐ろしさに警察を呼ぼうとスマートフォンを持った瞬間、画面に先程の男の内の一人が映り、こちらを見つめてきた。
たまらず叫び声を上げてスマートフォンを放り出す。

一体なんなんだ、何が起きてるんだ、誰か助けてくれ。

窓の外から俺を覗き込む男に気づくと同時に、ガチャリと玄関のドアが開く音がして、俺の意識は途絶えたーーー



ーーーある晴れた日の大学。
「ねえ、春原ゼミの広本先輩の話知ってる?」
「知ってる知ってる!薬物やって捕まったんでしょ?」
「そうそう!なんかね、捕まった時に幻覚見てたらしくて、お巡りさんの目の前で急に叫んで気絶したんだって」
「うわっ怖いね」
「ねー怖いよね。今は病院にいるけど、家族も認識できないくらい酷い状態なんだってさ」
「うわあ…ってか亜里沙、なんでそんな詳しいのよ」
「先輩の友達から聞いたんだよ。あっ、そろそろ授業始まるし、また後で話そ!」
「うん!」

ーーー私が詳しいのは当然だよ。
アレを売った相手が捕まったんだもの。
余計なことを話してないか調べておかないといけないからね。

さて、ずっと錯乱させておくのも無理だろうし、どうやって広本先輩に消えてもらおうかな。ああ、忙しい。





テーマ『見つめられると』

3/28/2024, 10:40:15 AM