明永 弓月

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 きみがくれた海。
 それが、この貝殻だ。

 耳に当てると波の音がするよ。
 きみの言ったとおり、耳に当てると音がする。それが、海の波音なのか確かめるすべはない。
 海には行ったことがない。この街から海は遠く、そう簡単には行けないのだ。この街には自分のやるべきこともある。

 君と海に行きたい。
 この貝殻をくれたときのきみの言葉。ずっと忘れていない。
 机の上に、いつも見えるところに置いている。そして、行けない言い訳をひとつずつ消していく。

 きみと海に行きたい。
 同じ気持ちでいる。自分の本音を貝殻にだけ囁く。

9/5/2024, 10:57:11 PM