辛いこと

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※ホラー注意

ー祖父母の家ー(ひなまつり)

私は毎年決まった日に、祖父母の家へ“連れられる”。
奥の部屋に決まったように並ぶ「ひな人形」。
可愛らしい造形に、胸がざわついた。

こんにちは、今年も来ました。

目を閉じて、手を合わせる。
少し暖かい日差しを感じながら、きれいに正座した。

その部屋は、日の光だけが部屋の構造を浮かばせた。
小さく開けられた窓から、光が振り注ぐ。
それに当たるようにして、ひな人形と台座が置かれているのだ。
細い光に、埃が透けて見えるのがとても好きだった。

少し哀愁の混じる祖父母の家に、変わらずにあり続けるひな人形。
それは、いつだったか、初めてこれを見た時の……恐怖。
それを忘れることを許さないかのように、静かに鎮座していた。

目線は合わない。
どこを見ているのか曖昧な、
まるで消えてしまいそうな、
理想的な顔。

今にもこの家を乗っ取ってしまいそうな、
幼心ゆえに感じた違和感は、それでも年々薄れてきている。

私はいつか、この恐怖を忘れ、このひな人形に取り入られてしまうのではないか。
馬鹿馬鹿しい妄想を広げては、首を振る。

帰り際に、祖父母が悲しそうな顔をして言った。

「ひろ子の墓参り、また行きましょうね」

“ひろ子”。
それは母の名前。
……私は毎年、連れられて…。

奥の部屋から、視線を感じた。
私は決して、そこを見ることはなかった。

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あ、ひなまつりか…。
おやすみなさい。20:55

3/3/2026, 11:56:02 AM