かたいなか

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秋らしい気配のことを、せきしゅう、秋色というそうですが、東京はまだまだ天気予報に最高気温30℃以上が続くようです。
近い未来に「秋を浴びに雪国/北国/標高高い県へ行こう」なんてツアーが来るんじゃないかと危惧しておる物書きが、こんなおはなしをご紹介です。
最近最近の都内某所、夜の某私立図書館は、とあるスマホゲームの聖地にして生誕地でありまして、
このたびその私立図書館、ゲームと合同で、ラストアップデートまでのカウントダウンコラボが開催される運びとなりました。

約10年、リリース当初からずっとずっと、
アップデートと調整と、それからコンテンツの追加に整理を続けてきた長寿ゲームは、
コードやソースがごっちゃごちゃ、かつそこそこの容量となっており、メンテナンスもひと苦労。

ゆえに運営元、「世界線管理局広報部広報課 企画・運営班」略して管理局広報課は、
ゲームリリース10周年を節目として、ラストアップデートすなわち更新終了までの予定を告知し、
そして、次回作とも言うべきリニューアルアプリへの引っ越しコード配布キャンペーン開催を決定。
これまでの課金額に応じた質と量の強化素材、ゲーム内通貨、キャラクター確定引換チケットを、
引っ越しキャンペーン参加アカウント限定キャラ複数体込みで、貰えるそうなのです。

ティザーサイトのトップに置かれたホワイトボードには、以下の文言が書かれておりました。

【重要】
ラストアップデートと
次回作引っ越しセット配布のお知らせ

「良かった、よかったぁ、サ終だけどサ終じゃなかったうわぁぁぁん、管理局バンザイ」
「分かった。わかったから。手を動かせ」
「動かしてるぅぅわぁぁぁん」

さて。翌日のカウントダウンコラボイベントまで残り10時間程度の、某私立図書館です。
事情を知った後輩、もという高葉井という微課金(【ごにょごにょ】万までは切り捨て)が、
ゲームへの愛と感謝と欲望でもって、
コラボ用の書籍・刊行物・過去頒布物コーナーを、整備しておったのでした。

「私ッ、一生、ツー様とルー部長についてくぅ」
「はいはい」
「だって先輩、引っ越しだよ、サ終じゃないよ、引っ越しだよ。今までのデータも見れるんだよ」
「はいはい」
「わぁぁん管理局広報課バンザイ」

カンカンカン、とんとんとん。
翌朝から始まるイベントに向けて、私立図書館の大改造が、進む、すすむ。
カンカンカン、とんとんとん。
その日の閉館から翌日の開館まで、大急ぎの大改造が、進む、すすむ。

「お疲れ様です!」
図書館職員たちの大忙しをねぎらって、なにより今回のお題回収がありまして、
「そろそろ少し、休憩にしませんか!」
管理局から高葉井の推しが、職員たちのための夜食たる秋色スイーツを持って堂々登場。

マロンマフィンとマロンケーキと、スイートポテトとさつまいもチップスと……
ともかく、秋色お菓子の大箱詰めです。
栗とサツマイモといえば、東京からはまだまだ遠い、秋の気配、秋の風景、秋の景色。
「秋色」です。

「明日から来月まで、忙しくなるとは思いますが、
私達もカバーに来ますので、宜しくお願いします」
高葉井の推しが言いました。
推しの後ろにはコンコン、おやおや、稲荷子狐がおりまして、稲荷印の風呂敷をくわえておりました。
どうやら中身は狐の好物、柿を使ったスイーツが、小ちゃく複数個、箱詰めされておるようでした。

「お疲れ様です」
高葉井の先輩は、高葉井の推しと会ったことがあったので、秋色スイーツボックスを受け取りました。
「秋物のお菓子ですね。ありがとうございます」
そして、夜間作業を急ピッチで進めている副館長やら高葉井やら、それから他の職員なんかも呼んで、
そして、皆で少しだけ、秋色の休憩をとることに、
一応、したのですが。

「ツー様だぁ……はわぁ……」
推しのサプライズな登場と、ゲームではゼッタイ見られない本物の推しの晩夏夜間コーデを目撃して、
「ありがとう……ありがとう、ございます……」
合掌ののち、急激な推し成分過剰摂取によって、急性尊み中毒を発症。
無事、心が昇天しましたとさ。 おしまい。

9/20/2025, 9:30:58 AM