マナセ

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「わたしをつれてってよ」
「だめだよ」

「なんで?」
「できないよ」

「どうして?もういやよ。ぱぱもままもきらい!ぜんぶきらいなの!ふじょーりよ!」
「不条理でも、まだつれていっちゃ、だめなんだよ」

「どうして…もう、いきていたくないよ…つらいよ、かなしいよ」
「…うん」

「もういや!わたしをかなしませる、あなたもきらいよ!」
「…うん、でも」

「なに!?」
「でも、そばにいるよ。ひとりぼっちじゃないよ。」

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「私を連れていって」
「無理だよ」

「いいから」
「無理」

「早く」
「無理。ダルい。」

「なにそれ?」
「出来ねぇって。」

「はあ?見てたんでしょ?ずっと」
「なにが」

「中学の時も、今も。ずっと私がいじめられてるところ。」
「うん」

「もう嫌なの。こんな思いも、辛いのもいやなの。だから早く連れていって。」
「無理だって。まだ。」

「なにそれ。もっと苦しめっての?私が何したの?私が悪いの?私が生きてるせいなの?」
「知らないけど。今は無理。」

「…あなたにすら見放されたんだね、わたし。本当に不条理だわ。…ううん、私が選ぶの。あなたに連れていかせるかどうか。私が選ぶのよ。」
「あっそ。でも無理だよ。」

「っ!…見てろよ!ばか!飛んでやるんだから!!」
「…だから、言ったじゃん。無理だって。」

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「…最近、貴方の事をよく思い出すの。」
「…左様でございましたか。」

「いやね、季節の変わり目だからかしら。若い頃の古傷が痛むわ。」
「酷く痛みますか?」

「ううん、毎年の事よ。もう慣れたわ。」
「酷く痛まないのなら、幸いです」

「もう子育ても終わって、やっとこれから。やりたかった事とかね?出来ずに我慢してた事をたくさん出来るって時なのに。こんな、はじまりの時なのに…不思議ね。貴方を思い出すなんて。」
「それは、ご愁傷さまな事でございましたね。」

「皮肉だけは昔から変わらないわね。貴方らしいわ。」
「そんな貴女様は、昔から変わらず、泣き虫でおてんばなままでございますね。」

「本当に憎らしい、不条理なことこの上ないわ。」
「その口癖も、小さい頃から変わりませんな。本当に、どこで覚えたのやら。」

「もう忘れてしまったわ。遠い昔の事よ。」
「左様でございましたか。」

「まだ、私を連れていく気にはならないの?」
「はい、まだまだ叶いませんな。」

「焦らし過ぎはレディに失礼よ?」
「それならば良かった。恐れながら、わたくしにとっては、貴女様は、まだあの頃と変わらないおてんば娘ですから」

「いやだわ、子供扱いだなんて。いよいよ笑えなくなるわよ?」
「そういう貴女様の微笑む顔を、ずっとそばで見守っておりましたよ。」

「ほんと、口の減らない貴方だわ。」
「ふふ、ご安心くださいませ。いつか必ず、貴女様と共に往きますから。」

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「あぁ…いよいよね…」
「長かったね」

「ううん…色々あったけど、あっという間だったわ…」
「子供達の背中も見れたね。みな苦労はあれど、幸せそうだった」

「はぁ…やり残したことはたくさんあるけど…わたしは満足よ…」
「そうかい…それならばよかった…」

「もう…いいわよね…?」
「あぁ、やっと満ちたから。きみをつれていけるよ」

「ながかったよ…とてもながかった…でも…」
「うん」

「あなたがいてくれたから、くるしいことも、つらいことも、がんばれたんだよ。」
「うん、しってるよ。」

「ありがとう。あなたのおかげよ。」
「ううん。ぼくはそばにいただけだよ。」

「さぁ、わたしをつれていって」
「うん。手、すこしつめたいかな」

「あぁ…あたたかいよ…やっと、にぎってくれた」
「たくさんがんばったから、あたたかいならよかった」

「あぁ…ふじょーりなこと…たくさんあったけど…」
「うん」

「あなたのことを、わすれないでいられて、ほんとうによかった」
「うん。ぼくもだよ。ずっとそばにおいてくれて、ありがとう。」

「うん。あぁ…光がみえるよ…まぶしいね…」
「あたたかいでしょ?目いたくない?」

「ううん、ぜんぜん痛くない…こんなに、まぶしくて、やさしい光なんだもの…」
「ずっとそばにいるよ。手、つないでるから。いっしょだよ。」

「うん…うん……、うん。」
「たくさんがんばったね。さぁ、いっしよにいこう。」

「また…あえる…?」
「あえるよ。また、はじまるんだもの。」

「そっか…よかった…」
「うん。」

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おはよう。
さぁ、おきて。

3/18/2024, 1:59:47 PM