どこかの誰かの手記

Open App

最初から決まってた

ボクは村人で君はヒロイン。生まれたときから神様に選ばれていた。君はいつか主人公が迎えに来て魔王を倒すためにたびに出るんだよ。それが神様の決めたことだから。

ボクとヒロインは幼なじみ。小さい頃から一緒にあそんで一緒に勉強をして、一緒に寝たりしてた。ボクたちは村で一番の仲良しだった。向かいのおじちゃんもぽつんと遠くに住んでいるおばあちゃんだってボクたちが仲がいいねって言ってくれた。ボクたちはこれからもずっと一緒だと思ってた。

ボクたちの村では10回目の誕生日に協会で役職を授かるんだ。正確に言えば、生まれる前から決まってる役職を正式に任命してもらうものかな。ボクたちの村は小さいから隣町で授かったんだけど、あの子はヒロインの役職を授かったみたい。一月もしたら大きな国に行ってヒロインとして教育を受けるんだって。ボクはただの村人だったよ。まあ、そうだよね。


その日から村は忙しくなった。あの子が立派に旅立てるように準備をして、たくさんお祝いをした。こんな小さな村からヒロインが生まれたんだもん。みんな自分のことのように喜んだ。みんなはね。

夜。全てを隠してくれる闇。ボクはあの子と一緒にいた。

「君のことをお祝いしているのに、行かなくていいの?」

「いい。私は何も嬉しくない」

俯いて、暗い声のまま君が言う。

「私は、ただの村人。なのに、どうしてカミサマは私をヒロインなんかにしたの。私が望まないことを勝手に押し付けて何をさせたいの。私は、こんなの、のぞんでないのにっ……」

しゃくりあげる音が聞こえる。なんて返事をするべきなんだろう。

「ボクは、ボクはね、嬉しいよ。でもね、同時に寂しくもある。君と会えなくなるのがすごく寂しい。君は僕にとってすごく特別だから。ずっと一緒にいたいって思ってる。」

暗闇に輝く君のきれいな顔を見つめる。

「でも、君はみんなにとっても特別なんだ。神様が決めた、最初から決まってたこと。神様は絶対なんだ。でもね、それには必ず終わりがあると思う。魔王を倒したら終わり。君はまた村人になることもできる。ボクも我慢する。君が背負うものよりずっと小さいものだけど、君が帰ってくるのをずっと待つよ。つらくなったらボクが遠くから応援する。だから、頑張って。終わったら、また、一緒にいよう。」

君の目から雫がこぼれる。君があまりにも勢いよく抱きしめるから驚いたな。


それから、あの子は国へと出発した。たくさんの人を助けるために努力しているらしい。
ここから遠く離れた町で主人公が現れたらしい。これからその子も国に行って魔王討伐に行くことになるのだと思う。討伐できたらヒロインからは解放されるって思ってるのかな。


ごめんね、君に伝えられないでいたことがある。主人公とヒロインは必ず結ばれるんだ。小さい頃の記憶は他の人よりも薄れていって、魔王を討伐するまでに全てぼんやりとする。その間に主人公と愛を育んで幸せに暮らすんだ。それが、この世界だから。それが、カミサマが決めたこと。最初から決まってた抗えない運命だよ。


ああ、カミサマ。あなたを心の底から信仰していないボクへの当てつけですか。どうしてこんな運命をボクに教えたのですか。ただの村人を、こんなに苦しめるのはなぜですか。ボクは村人で、あの子はヒロイン。


なら、せめて、あの子が最期まで幸せであるように願うことくらいは許してください。神様。










8/7/2023, 1:45:11 PM