駒月

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 付き合って初めて相手の家に来た。
 付き合うまでも硬派な男と距離を詰めるのに時間がかかった。家で何をすればいい?何も考えないで来てしまったけど、どうにかなったらどうするんだ私は……!

「茶……飲むか?」
「う、うん!」

 声が裏返った。柄にもなく緊張している、恥ずかしい。

「そんなに警戒しなくても……何もしないから」
「うん……え?」

 しないのかい!
 いや何期待してたんだ私!

「最近ゆっくり休む暇なかっただろ。それに、話もしたいと思ってたから」
「へ?!」
 
 何もしないって言ったのに、手を握られた。
 たったそれだけのことなのに、全身が熱くなる。

「悪い……その、今日はこれだけさせてくれ。嫌だったら殴ってくれて構わない」

 いやなもんか、めちゃくちゃ嬉しい。
 さっきから心臓がうるさくて話なんかできそうにないけど。

「すまん……上手く話ができそうにない」

 耳が真っ赤になっている。緊張してるのはお揃いなんだと思ったら笑いが込み上げてきた。

「そんなにおかしいか?」
「おかしいとも。ねぇ、もう少しこのままでいない?……慣れるまで」
「あぁ」

 向かい合って手を繋いで。
 私たちはゆっくり始めていこう。



【手を繋いで】

12/9/2023, 11:30:12 AM