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『20歳』と『三日月』


「──なにも変わらなかった」

 20歳が三日月に言った。

「17歳や18歳、19歳のときと同じ。ただ昨日が今日になって、すぐに明日になっただけ、ワタシも世の中も、なにも変わらなかった」

「そりゃ、そうだろ? この世は基本、なにも変わらない。少々歳を重ねたところで、オマエはオマエでしかないのだから」

「アナタは──見る度に、その姿が変わるのに?」

「スポットライトの当て具合が違うだけだ。光の加減でオレは、マッチョにも、いまのようなヒョロヒョロの優男にもなる。だがオレは、未来永劫、オレでしかない」

「ああ、そういう……三日月のアナタも満月のアナタも、アナタはアナタである、と」

「フン……まぁ、そういうことでもいいか」

 三日月は鼻で笑い、そして続けた。

「で? オマエは、どんなふうに変わりたかったんだ? いや待て、当ててやろう。いまのオマエじゃないなら、なんでもよかった──ここではないどこかへ行きたかった〜、とか、どうせそんな感じだろ?」

「……普通に、腹が立ちますね?」

「フッ、腹が立つなら重畳。まぁせいぜい、いま現在ココにいる、オマエのままでいることだ。そのまんまのオマエでもな、意外と、なんにでもなれるぞ? ……オレと違って、な」

 それから──月日が過ぎ。

 かつて20歳だった者は、久しぶりに見上げた夜空に三日月があるのを見つけ、三日月と話したことを思い出した。

「……アナタは。変わらずにそこにいる」

 かつて20歳だった者は続けた。

「ワタシも、どんなにあがいても結局、ワタシのままでしたが。でも何者かには、なれたかもしれませんし、これからも……まだ、なんにでもなれる。アナタとは違って」

 三日月からの返事はなく──かつて20歳だった者は、ふいっと三日月から視線をそらす。そして背に月光の当たる熱にも気づかず、一人夜道を行くのだった。

1/11/2026, 9:47:12 AM