××島。ギャングの街。あちこちにギャング達の“シマ”があり、日々抗争と戦略が繰り広げられている。
この島1番の若頭である彼は、目の前で命乞いするこのガキに嫌気がさしていた。
「おねがいだから!お兄ちゃんはびょーきなの!!」
「…で?だから?…俺らのシマに勝手に入り込んだのに?」
「あっちから逃げてきたんだよ!僕が出来損ないのせいで、どこのシマにも入れて貰えなくて…」
「そんだけの理由でタダ飯寄越せってか。ここはそんな甘くねぇよガキ」
「…な、なんでもする!なんでもするから!!」
「じゃあここで兄ちゃん見捨てて俺らんとこ来いや」
「そ、れは…っ……」
「もう大丈夫、…𓏸𓏸だけでも、生きて…」
「やだよ!お兄ちゃん!!」
「……はぁ…」
ずっとこんな調子なのだ。若頭はガキ共を無視して拠点に戻ろうと背中を向けた。すると後ろから背中にゴツンっ!と鈍い痛みが襲う。どうやら弟の方が若頭に頭突きをしたようだった。
「…なんだテメェ」
「そんなんでここの頭かよ!僕らを助けられる自信がないんだろ!!」
「……はぁ?」
「………ここの島の人達に頼ろうとした僕が馬鹿だったんだ。お兄ちゃん、僕が守るからね。ちゃんと背中に乗っててね」
「ありがとう…」
そう言って弟は兄をおんぶすると、ゆっくりした足取りで、確かに前へ進み始めた。若頭はふっ、と笑うと弟の前に立ちはだかる。
「……なんだよ、どけよ」
「気に入った。お前ら2人の面倒見てやるよ」
「…いまさら何だよ」
「俺のガキの頃にそっくりだ。そうだよ、この世界では周りに頼っちゃいけねぇ」
「だからたよらないよ、どいてよ」
「この世界では、生きてんのも、死ぬのも、地獄なんだよ」
「……だから何」
「…ただ、同じシマの同胞には、時に優しく、時に厳しく、成長し合っていく。そんでもって俺らだけの最高の世界を創っていくんだ」
「…うん」
「その同胞に入れてやる」
「………上からめせんだね」
「ンはは、生意気なガキだ。とんでもねぇ逸材だなぁ?」
「こっちからもじょうけん」
「なんだ?」
「………気に入らなかったらでていく」
「おぉ上等だガキ。地獄しか知らねぇお前らに天国ってモンを教えてやるよ」
「…教えれるもんなら教えてみてよ」
若頭は自分の子供の頃にコイツらを重ね合わせる。同情はしてはいけないが、実の兄を見捨てた自分と違って、こいつの目があまりにも真っ直ぐだったから。
「ちゃんとついてこいよ、ガキ共」
「すぐに追い抜かしてやる」
「おーおー、いい心構えなこった」
「とりあえずごはん」
「人には頼み方ってもんがあんだろ」
「めし!」
「お前…っ、このガキがぁ!」
「あはは!おこったぁ!」
「…ちっ……はぁ…とんでもねぇ拾いもんしちまった…」
殺伐としたシマの空気に、久々の笑顔。地獄でも、思えばそこは天国になるのだ。
『天国と地獄』
5/27/2024, 11:06:12 AM