もうここには数年通っている。
すっかり仲良くなった看護師さん達に挨拶をし、
僕は7階に向かった。あの子に会うために。
君の居る部屋に入ると君は窓の外を眺めていた。
不意に綺麗な横顔だな、と思ってしまった。照れくさい。
春の暖かい風と共に桜の花びらが1枚。
君は心做しか少し笑顔でとても安らかな瞳をしていた。
桜だ。桜がいいな。公園いっぱいに咲いた桜を見に行こう。
桜に囲まれた君を切り取ってアルバムに挟みたい。
もう少し、もう少しだけ頑張ろうね。
今日が最後だから。この手術が終われば退院なんだ。
僕が買ってきたストレチアを花瓶に挿した。
君と色々な物を見たい。色々な所に行きたい。
「手術が終わったら桜を見に行こうか、桜、好きだもんね」
そういうと君は目を輝かせて嬉しそうに笑った。
___時間だ。麻酔をされ、すやすやと眠っている君が
運ばれていく。こんな時でも思ってしまう、
やっぱり、君の横顔は綺麗だ。
お医者様によると簡単な手術だそうで、
2時間も無く終わるらしい。早く君と桜を見に行きたいな。
****
もう4時間は経ったぞ?おかしい。
2時間も掛からないって言っていたのに…
看護師さんに何度も確認を取ったが、簡単な手術だし、
手術中に部屋の中に入るのは難しいから、
終わるのを待ってほしい。と、
****
明らかにおかしい、もう6時間も経ってる。
本当に、本当に大丈夫なのか、あの子は、あの子は…!
その時、手術中のランプが消えた、あの子が帰ってくる、!
扉が開くのを待った。先生が出てきた。お話を、聞いた。
****
君は帰ってこなかった。
先生によると君は手術中に容態が急変したらしい。
簡単な手術って、言われてたのに、
なんで、君だけがこんな不幸になるんだろうか。
……君と桜、見たかったなぁ…
書類整理が終わり、看護師さんやお医者様にお礼を言い、
あの子の身の回りのものを整理している時にはもう、
あの時持ってきたストレチアは枯れていた。
「…ははっ、お似合いだな…」
僕はお葬式には行けなかった。認めたくなかった。
僕はこれから、どうしよう。
1週間、僕はもう何もやる気がなかった。
認めたくない、本当に、認めたくなかったけど、
段々と、認めてきてしまった、、行こう。
君のお母さんに頼んで、線香を焚かせてもらった。
あぁ、やっぱり君は、綺麗な横顔をしているね。
君の事、本当に好きだよ、大好き、愛してる。
****
もう君が居なくなって一年経つね。
今日は色々持ってきたんだよ。君が好きな本と、
君が食べたいって言ってた飴もね!
「この1年、僕は沢山考えたよ。
でもね、やっぱり僕は君が好きだ。」
そう言って僕は君に赤いカーネーションと指輪を渡した。
「結婚してください!」
3/14/2024, 12:00:49 PM