降り止まない雨が、私の頬を濡らす。
風がビュウビュウと吹く中、私は高層ビルの屋上にいた。
父も母も死に、プロポーズ目前だった彼氏に浮気され、会社の上司にプレゼンを潰され、心の支えだった猫も今日帰ったら息がなかった。
生きる希望がない、という言葉が今の私にそっくりだろう。
雨がスーツを濡らしていくが、ブラウスや袖は既に涙でびしょ濡れだ。
もう何時間こうしているだろう。もしかしたらまだ希望があるのではないかなんて言う無謀な望みが脳裏に残っているからか、一歩踏み出せば楽になる現実に目を合わせられないでいる。
私はフェンスの外側に腰掛け、足がぶらつくのをぼーっと見ている。
何の価値があるのだろう。親戚も居なければ家族は死に絶え無縁仏まっしぐらで、社会の役にも立たない人間に。
黒雲のせいで真っ暗な空をふと見上げる。
前髪が風でバサバサと揺れる隙間から、一筋の光が見えた。
あっという間にその光は広がり、雨を晴らした。
まるで溢れる希望のように。
私は座り過ぎて痛む足で立ち上がりフェンスの内側に超えて、会社のカバンを持った。
そして少し振り向いて、残酷なまでに美しい世界を見渡す。
今日は会社を休もう。明日からまた出勤しよう。
私は知った。
いや、知っていたのだ。大昔、小さな頃から。
それを見失っていただけで。
降り止まない雨を、晴らせることを。
5/25/2024, 12:57:16 PM