ののの糸糸 * Ito Nonono

Open App

No.4『別れの前日』
散文 / 恋愛 / 掌編小説

貴方に気づかれないように、少しずつ荷物をまとめた。二年半に及ぶ同棲生活のなかで、少しずつ増えていったものを。

お揃いの歯ブラシや茶碗、マグカップ、日常生活で使う日用品なんかはまだ置いてある。ただ、一年を過ぎる頃から家事を一切やらなくなった貴方は、わたしのマグカップや茶碗がなくなったからといって、この部屋を出て行くために荷造りをしているだなんて思いもしないのだろう。

お互いに仕事で忙しいわたしたちだけれど、二年目までは毎日一緒に朝食をとっていた。夕食もできるだけ一緒にとっていたし、仕事が終われば寄り道もせず、真っ直ぐ帰宅していた。
それが、いつの間にか残業を言い訳に帰りが遅くなり。気づいた時には朝食で顔を合わせることもなくなっていた。

もう何日、貴方と口をきいてないのかな。これなら別れの言葉もいらないね。
明日、貴方が仕事に行っている間に、さよならは言わないで出て行くね。


お題:さよならは言わないで

12/3/2022, 4:32:11 PM