「雫」
その日は前日の夕方から降りだした雨で、一日中じっとりとしていた。カーテンを開ければほの明るい外の明かりが入り込み、明かりをつける必要はなかった。窓に打ち付ける雨音を聞きながら、コーヒーとクッキーを用意して静かに読書する、という時間が止まったような休日を過ごしていたのは彼で、私はそれを真似しているにすぎない。ふらりと立ち寄った図書館で手に取った百ページほどの小説を開く。かたい表紙は指で押さえていないとすぐに閉じてしまう。一ページ、二ページと読み進め、静かに本を閉じた。窓を打ち付ける雨音にひかれて顔を上げた、といえば聞こえはいい──彼は時おりそうやって目を休ませていた──が、普段しないことが長続きしなかっただけだ。窓を伝う雨の雫が涙のようだ、と言った彼は、私の涙を見ても、表情ひとつかえなかった。誰の体を通ってきたのかもわからない雫に心を震わせていたのに、私の涙には、彼を感傷的にさせる力はなかったらしい、なんて、物語に触れなければ知らずにいられたのに。
4/21/2026, 11:34:30 AM