ずっと昔、2人で剣を預けあった親友がいた。
騎士養成学校時代、成績は常にワンツーで、その差も常に極わずか。抜いて、抜かれて、また追い抜く。そんな学生時代だった。
太陽と月、白虎と黒獅子、光と影。
俺達は常に表裏一体で、互いを良き戦友として、好敵手として認めていた。
そんな関係が変わったのは、数年前、王国と帝国の間で大規模な戦争が起きた年だった。
2人ともよく似た成績で、他の誰より優秀。
そんな俺達は、二つある騎士団のエースとしてそれぞれ据えられた。
彼は、戦場に先攻して場を開く第二騎士団に。
俺は、彼等の開いた道を進み、支配を着実なものにする第一騎士団に。
俺はこの配置を、当時は何一つ疑わなかった。
彼は俺より僅かに上背があったし、その僅かな違いだって戦場では大差になり得るから、彼がより戦闘の激しい第二部隊に送られたのだと信じていた。
けれど、俺と彼では、たった一つだけ大差のついたものがあった。
それが、身分だ。
俺はそこそこの貴族の出で、彼は元々平民、更に血を辿れば奴隷だった時代すらある。
彼は俺の代わりに、捨て駒のように第二部隊に送られたのだ。
そう気付いた瞬間、俺は初めてこの国に対する明確な怒りを抱いた。
その日の晩、俺は仲間の制止を全て力でもって振り切り、夜中に戦場へ駆けた。1秒でも早く、彼と代わりたかった。彼の背を護りたかった。
けれど、そこに待っていたのは地獄の一言に尽きる光景。
顔馴染みの同期が、いつか労ってくれた先輩が、自分の後ろをついて回っていた後輩が、屍となって塵のようにそこらに転がっている。
こみ上げる胃酸を無理矢理飲み下し、俺は見慣れた黒髪を探した。
彼さえ生きていてくれれば、まだ救われた。
同期も、先輩も、後輩も、彼さえいてくれればその死を乗り越えられた。
それなのに。
雨の降りしきる戦場の中央で、第二騎士団のものである黒い鎧に身を包んだ彼の、首から上だけを腕に抱いていた。
真横に転がった彼の身体と愛馬は、もうとっくの昔に温度を失っている。
まだ、何も伝えられていないのに。
かつては清く、美しく澄んでいた筈の淡い淡い慕情の念が、急速に濁って、汚れて、穢れにも近いような悍ましい何かに変貌するのを、腕の中の濁った瞳だけが知っていた。
テーマ:届かぬ想い
4/16/2026, 8:39:30 AM