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 現代日本は、あらゆる娯楽が存在する!
 ゲーム、漫画、アイドル、美食、芸術!!
 かつて昔の人々が手を伸ばそうとしたきらめき!!!
 それが今、誰の手にも手に届く時代!!!!

 だが何事にも例外は存在する。
 きらめきを求めながら、きらめきを手に入れられない者たちがいる。
 誰もが手を伸ばし、しかし多くの人が取りこぼすきらめき。
 それは『恋愛』。

 これは、自分だけのきらめきを求めて足掻いた少年の物語である


 ◆


 ここは懺悔室。
 悩める者たちが訪れる場所。
 きらめきが溢れるこの時代にも、この施設は消えることは無かった。

 この物語の主人公である少年も、悩みを抱えていた。
 彼がその悩みを解消するため、ここに訪れた事から話が始まる。

「すいません、懺悔してもいいですか?」
「構いませんよ
 どうぞ、お座りください」
 少年が慣れない様子で懺悔室に入って来る。
 神父はそんな不慣れな少年を優しい口調で迎え入れる。

「ここでの話は口外いたしません。
 ほかに聞いている者は神以外にいません。
 ですから安心して話してくださいね」
 神父の優しい言葉に少年はホッと胸を撫で踊る。
 今から懺悔することは、他の誰か知られたくなかったからだ。

「実は僕、好きな人がいるんです」
「すぐに告白しなさい」
「神父様?」
「神父ジョークです。
 続きをどうぞ」
「はあ」
 少年は訝しみながらも話を続ける。

「今日席替えがあって、幸運なことに彼女と席が隣になったんです。
 でも勇気が無くて話しかけられません……
 どうしたらいいでしょうか?」
「勇気を出して話しなさい」
「それが出来たら苦労はしません。
 そしてそれを手伝ってもらうため、僕はここに来ました」

 少年はその場に立ち上がる。
 彼は布一枚を隔てたところにいる神父を睨みつけた。

「僕、知っているんですよ。
 この教会の懺悔室で懺悔すれば、願いを叶えてもらえるって。
 違うんですか?」
「そちらのお客様でしたか……」

 神父の声のトーンが一段下がる。
 今まで優しかった声が、まるでこちらを値踏みするような声色……
 少年は少しだけ怖気を感じたが、悟られないよう虚勢を張る。

「願いには対価が必要だって事も知ってる。
 なんでも言え!」
「素晴らしい!
 では懺悔室の外に出てください。
 詳しい話はそこで」

 少年は、神父の言葉に従い外に出る。
 懺悔室から出ると、すでに神父が出て待っていた。
 神父は屈託のない笑みを浮かべ、少年を見ている。
 少年はその笑顔にうすら寒い物を感じた。

「出てきましたね。
 これを見てください」
「これはバナナの皮?
 これがどうしたんだ?」
「これを使ってボケてください」
「はあ!?」
 少年は驚きのあまり大声で叫ぶ。
 彼が想像していた対価と、全く違っていたからだ。
 少年の頭の中はハテナマークで埋め尽くされます

「お金とかじゃないの?」
「神父がお金とか持っても意味ありませんよ」
「バナナの皮、どっから出てきた?」
「私のおやつです。
 懺悔室で食べてました」
「ボケろって何?」
「お笑い好きなんですよ」

 神父は、少年の怒涛の質問にも動じず、涼しい顔をして答える。
 少年は若干のいらだちを覚えるも、それを飲み込んで次の質問をする。

「あのさ、からかって楽しい?」
「楽しいですよ、これ以上なく」
「趣味悪い……」
「悪くて結構。
 質問は以上ですか?
 ボケますか、ボケませんか?」
「……本当にやったら願いを叶えてくれるんだな?」
「神に誓って」

 少年は考える。
 モノボケなんてやったことは無い。
 というか漫才そのものをしたことが無い。
 間違いなく滑るだろう……

 つまらないボケをして、この話しが無かったことになるかもしれない。
 けれど、ここで引き下がっても何も始まらないことだけは確かだった。
 彼は自分だけのきらめきを手に入れるため、モノマネをする覚悟を決める。
 少年は息を大きく吸います

「いくぞ。
 モノマネ『オラウータン』――」
「あれー、こんなところで何してるのー?」

 少年はすぐさまモノマネを中断し、声の方へとぎこちなく振り向く。
 声を間違えるはずもない。
 視線の先には、少年が好きな少女がいた。
 彼は動揺を悟られないように、顔に笑顔を浮かべる。

「僕?
 僕は散歩さ。
 君は?」
「私はねー、漫画のネタにならないかと思って懺悔室まで来たんだー」
「そうなんだ」

 少年が助けを求めるように神父を見る。
 だが神父は笑いを必死にこらえているのか、体を小刻みに震わせていた。
 少年の慌てっぷりが、神父の心をつかんだらしい。
 神父は満足そうに頷くと、少女に近づく。

「お嬢さん、懺悔室を見たいと言いましたね?」
「駄目ですかー?」
「いいえ。
 今は人がいないので見てもらって構いませんよ。
 そうだ!」
 神父は何かを思いついたように、少年に視線をやる。

「神父役としてこの少年を付けましょう。
 漫画のリアリティー向上に貢献できるはずです」
「そのアイディア頂きー」
「ちょ、待って」
「入り口はこちらですよ」
「ありがとうございますー」
「無視すんな!」

 少年の叫び虚しく、少女は懺悔室に入っていく。
 それを見送った神父は、少年を手招きした。

「少年、君はこちらから入るといい。
 気にする必要はない。
 私を楽しませてくれた礼だ」
「でも心の準備が……」
「残念ながらチャンスというものは、都合のいいときに来てくれるとは限らない。
 ここに入って彼女と話したまえ」
「でも……」
「どうしてもと言うなら私がやろう。 だが次の機会は保証しないよ」
「……僕がやる」
「そうでなくては!」

 少年は神父に案内されて懺悔室に入る。
 懺悔室扉を閉める時、少年は神父の顔を見た。
 その顔は、お気に入りのおもちゃを見つけたような、子供のような笑顔だった。
 神父は少年より先にきらめきを手に入れたのだ。

 少年は神父に怒りを感じつつも、ひとまず心の外に追い出すことにした。
 好きな女の子とお話しするのに、邪魔な感情だからだ。
 彼は自分だけのきらめきを手に入れるため、負けられない戦いに挑むのだった。

9/5/2024, 1:49:34 PM