梅雨
梅の実が熟す頃だから梅雨と呼ばれる、と聞いたことがある。
夏に飲む梅ジュースは甘酸っぱくて格別旨かったから、
ばあちゃんの梅仕事をよく手伝っていた。
黙々と梅のヘソを取る僕を、あいつはニコニコ見てたっけ。
「会いたいな」
ふっと、言葉がこぼれる。
「会いに行けばいいのよ。おばあちゃん喜ぶわ。
最近、あんた顔色悪いし、気分転換してくれば。」
母さんの勘違いだ。
でも、最近、酷く疲れている。
確かに、いつも明るいばあちゃんの顔を見れば、少しは
元気になれるかもしれない。
思い出が詰まった場所だけに複雑ではあったが、久しぶりに
ばあちゃんちへ行くことにした。
「やっとこさ着いた」
「よく来たね。雨のなか大変だったろ。
おや、だいぶお疲れだね。痩せたんじゃないかい。」
「ちょっと前から色々あってね。」
「あの子は一緒じゃないのかい。
まさか愛想尽かされたんじゃ…」
血が逆流したって、こうはならないってぐらい
驚いた。
「ばあちゃん、あいつのこと覚えてるの?」
「当然でしょ。なんで、そんなに驚くかね」
あの日から初めて、あいつを覚えている人に出会えた。
幻じゃなかった。あいつは、どこかにいる。
溢れそうな涙をぐっと我慢する。
もう一度、あいつを探そう。
6/1/2023, 4:04:10 PM