神様が舞い降りてきて、こう言った。
──彼女を護るのは私の役目だから。
それを聞いた僕は、目を見開いて硬直した。驚きというより図星をつかれた感覚だった。絶望にも近い。
何かを言い返そうとして張り付いた唇を離すも、言葉が浮かばない。薄く開いた口許からは、音にもならない空気が漏れ出るだけだった。目を逸らす。
あまりにも、情けない。
普段ならもっと高圧的にもなれるのに、こればかりはだめだった。
あたりまえだ。悪魔の血を引く僕に、彼女を守る力などない。あるはずがない。常々そう思っていたところへこれだ。もはやトドメだろう。
彼女とともに過ごした時間が長かろうが関係ない。そもそも、“神様”と、僕自身がそう呼んでいる時点で勝てもしないのだ。
そして彼女もまた、奴をそう呼び、それから願い、祈り、求めるのだろう。
わかっている。わかっている。全て、わかっている。
ただ、君を守るのは僕でありたかった。それだけだった。
小さな、それでいて強欲な、君に必要のない僕のエゴだったんだ。
押し付けなんか、しないよ。するわけがない。
僕だって君を守りたいんだから。だから、君の幸せが僕の一番であるべきなんだ。
僕は顔を上げると、神様をひと睨みした。ああ、完全に負け犬だ。格好がつかないにも程がある。
目の前の奴はそんな僕に一瞬だけ哀れむような目を向けたあとで、フッと嘲笑をこぼす。それは奴なりの慰めのつもりだったのかもわからないが、僕は悔しさに心を淀ませて、ただ無言のままその場を去る。
彼女を護りたいから悪態はつけないし、彼女を守りたいから納得もできない。
せめぎ合いなんて、葛藤なんて、悪魔が聞いて呆れると、僕は奴の隣を通り過ぎながら、そう思った。
title. あくまでも
Thema. 神様が舞い降りてきて、こう言った。
7/28/2024, 1:50:36 PM