女児を抱えて走る。
早く、一刻も早く、医者に診せねばならない。殺しに使う毒の知識ばかり学んで、薬のことはからきしだったことを後悔する。
雪深い森の中を、簑を着て駆けた。
途中で女児の様子を確認するが、息は荒く、体が熱い。この寒さでやられたのだろう……小さな体でよく耐えたものだ。放っておけば弱って死ぬ……焦燥感に駆られた。
子供一人死んだところで、どうということはない。だが、この女児が息絶えるのだけは避けたかった。彼女の面影のある瞳を、失くしたくなかった。
幸い、夜までに医者のところに滑り込むことができた。薬を与え、布団に寝かそうと抱き上げると、しがみつく小さな手。
「いかないで……」
なんと弱々しい声。
守れるだろうか……この小さな命を。奪うばかりで与えることを知らない自分に。
そっと抱き締めたまま座り、壁にもたれかかる。外を駆けていた時よりも熱は幾分落ち着いている……今は微熱といったところか。
じんわりと伝わる体温が、今は女児の生きている証。
「何処へも行かない……お前を置いては、何処へも」
声が届いたのか、女児は目を閉じ眠りについた。寝息を確認すると、一気に疲れが押し寄せる。
明朝には下がっているだろう。だから今夜は、もう少しだけ……この微熱という安堵を抱き締めさせてくれないか。
【微熱】
11/26/2023, 11:04:35 AM