NISHIMOTO

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常日頃から一緒に居たいとは言えない。忙しい人に「明日どこかに出かけよう」と口に出すのもためらってしまった。
夜半過ぎ、招集に向かったひとの残した皺をなぞる。抜け殻なんてとんでもなくて、ただ、ここに腕があったのだと思い返しても記憶はうすらに掴めないまま。もう充足が遠すぎる。
それはひとつひとつ丁寧にバツをつけた感情の答案用紙が取り残されて、それを隠し続ける後ろめたさと同じ。学生時代何度も経験した醜さを直視したくなくて、また学生時代と同じように、かさんだ紙束を燃やそうと。
じわじわと遠くの街からのサイレンが急かす。それが不安を注いで、限界だった。
怒りたって剥いだシーツを置き捨ててソファーに寝転がって、どうしてこんなにうまくいかないのだと天井を仰いでしまう。
朝方には帰ってきたひとが俺の手を握って傍で眠りにつく。それを知りながら言うべき言葉も見せるべき態度も一向に示せない。出来損ないの日々ばかりが積み重なってしまう。何度もそれを燃やしてしまいたいと繰り返し願って生きる。
夢の中であのひとが「私たちの日常ってそんなものだよ」と苦笑いした。

6/22/2023, 1:13:27 PM