雷羅

Open App

 作品を描いていると、時々考えることがある。
 私の分岐点はどこだっただろう、と。
 作業通話に誰も捕まらなくて、私は黙々と液タブにペンを走らせる。話しさえできればあとは描くだけなので、適当な配信を聞きながら手を動かしていた。でもふと、そんなことを考えはじめてしまって配信の声が頭に入らなくなってくる。
 私の分岐点。私が通ってこなかった、もう一つの物語。
 たとえば、そもそもオタクにならなかった私。ちょっと想像ができない。今私がこんなに楽しいのはこれまで読んできた数々の漫画のおかげなので、それらを知らないでなにを楽しみに生きればいいのかわからなかった。
 たとえば、化粧を好きにならなかった私。はじめはオタクを隠して普通を装おうとしただけだったけれど、そのおかげで今化粧品を売っているのだから不思議なものだ。もしも化粧と出会わなかったら、私が化粧を好きにならなかったら、なにになっただろう。学生時代から漫画はよく褒められていたから、勘違いして漫画家になっていたかもしれない。でも私は二次創作ばかりでオリジナルを描いてこなかったから、きっと訓練もせずに目指してもいい結果にはならないだろうなと思う。
 たとえば、誰かと結婚した私。三十歳も見えてくると、周囲が結婚しはじめて時々焦る。いつか出会えたらいいなぁという気持ちもあるけれど、今のところは気配はなかった。私が恋愛をしたら、結婚をしたら、どうなるのだろう。漫画を描くのをやめているだろうか。オタクでいるのをすっぱりやめているだろうか。想像すると少し寂しかったけれど、オタクも漫画もやめて大丈夫なほど相手を愛しているのなら、それはそれで幸せなんだろうなと思う。
 だらだらと考えて、結局もう一つ物語なんてものを想像もできない自分の想像力の貧困さに苦笑した。
 いつか、そうだったかもしれない世界。
 想像しても見ることができない物語。
 考えても仕方ない。だって私は今生きていて、明日は仕事で、来月までに原稿を仕上げなければならないのだから。
 液タブにペンを走らせる。
 並行世界に夢を見るのは、今はまだやめておこう。

10/29/2023, 11:11:04 PM