『愛してる。』
昔、言われた言葉。誰が言ったんだっけ?
「…もう、朝か。」
カーテンから差し込む光に、少し苛立ちながら体を上げる。そして、ノロノロと洗面所に向かう。鏡に映る俺は、泣いていた。またか、と呟く。俺は昔から時々、目覚めると泣いている事があった。哀しい夢を観たせいかもしれない。涙と夢について一度、占ってもらった事がある。その時の占い師は、少し微笑んで
『もうすぐです。もう少しで、理由は明かされます。』
とだけ、告げた。結局俺は、涙の理由を知らない。
俺が観る夢は、まるで実際に体験した事のあるように感じた。ストーリー自体は、有名な〝ロミオとジュリエット〟のようなもの。そこで俺は、一人の女性に恋をする。お互いを知る内に、二人は恋に落ちる。しかし、不運な事故のせいで、彼女は亡くなった。俺は、後を追うように自殺した。家柄の問題はなくとも、待っているのは死。そんな在り来りなストーリー。その中で俺が一番覚えているのは、花畑の真ん中で彼女が、俺に愛を伝える場面。彼女の顔はぼやけていて、よく見えない。それでも、笑いかけているようで、優しくて、心地が良かった。
ある晴れた日の朝。俺は、用もなく道を歩いていた。何だか、誰かに呼ばれている気がした。真っ直ぐに続く道を、ゆっくりと歩いていると、何かにぶつかった。ぶつかったものの正体は、同い年くらいの女性だった。俺は、慌てて謝ると、彼女は目を大きくした。
「大丈夫ですか!?」
そう言って、彼女はハンカチを俺に手渡した。俺は理由も分からず、それを受け取った。
「泣いてますよ。これ、使ってください。」
そう言われて、俺は自分が泣いている事に気が付いた。そんな、俺を見て、彼女は小さく笑った。
「昔から、変わらないね。泣き虫のままだ。」
俺は、涙の理由を知った。
10/10/2024, 2:40:36 PM