粉末

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「ああ、こんなところにあったのね。」
日記帳も兼ねた少し厚めで重みのある手帳。
今のいままで存在すら忘れてしまっていた。
いけないこととわかりつつお掃除の手を止めて
ぱらぱらとページをめくる。
スケジュールのページも日記のページも
一日一日を大切にしようと必死に書きこんでいたことを思い出す。懐かしいやら恥ずかしいやらで苦い砂糖を舐めたようだった。
「去年の今ごろは何をしていたっけ。」
わざわざ書くほどのものではないスケジュールだらけ。
日記も変に前向きなことばかりで笑ってしまう。
「がんばっていたのね。私も。」
びりびり、びりびりと役目を終えた手帳に別れを告げる。
「今の私にはね、生きがいがあるの。太陽の化身。
アポロンのような人。あたたかくて力強くて。
優しくて不器用で…可愛い。」
ぱらぱらとゴミ袋の中に落ちた私と目が合った。
去年の日付。去年の私。
一年後に人生が変わってしまうことをこの私は知らないのだ。
「だからね、焦らなくても大丈夫よ。」


一年後

5/9/2024, 8:59:18 AM