紅月 琥珀

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 その日は可もなく不可もなく、良い事もあれば悪い事もある⋯⋯そんな日だった。
 例えば、前日に頑張って終わらせた課題を家に忘れてしまったとか、或いは夕方から雨だと言われてたのに傘を忘れるだとか、そんな不運があったり。
 かと思えば、いつもなら売り切れて絶対買えない購買のデザートが買えたとか、ずっと欲しかった物を友人からプレゼントされたりと、小さな不幸と幸福を繰り返す様な⋯⋯そんな日だった。

 放課後に雨宿りしてたら好きな人に話しかけられて、傘に入れてもらえてしかも送ってくれるなんて凄くラッキーだと思ったら、クラスの女子に邪魔されて私の家までついてこられたりと⋯⋯幸と不幸のバランスが絶妙に取れているものだから、やる事を全て終わらせて、ベッドに入り今日1日を振り返った時、少し笑ってしまった。
 明日は良い日になりますように。
 そんな事を思いながら私は夢の中へと旅立った。

 ◇ ◇ ◇

 朝目が覚めてはじめにやる事はスマホのアラームを止めて時間を確認する事だ。
 時刻は5時20分。いつの通りの時間ではあったが⋯⋯1つだけ不可解な点がある。
 今日の日付が昨日のままで、スマホが壊れたのかと思い⋯⋯急いでリビングまで行き、お母さんに挨拶もそこそこにお父さんの新聞を少しだけ借りて日付を確認したが―――やはり日付は昨日のままだった。
 一応お母さんにも確認したが同じ答えが返ってきたので、急いで部屋まで戻り鞄の中身をチェックしたら、昨日用意したはずの教科書とノートではなく⋯⋯前日の物が入っていた。
 なので昨日提出出来なかった課題を入れて、朝食食べて支度して傘も忘れずに持って学校へ行く。

 本当に昨日と同じ日だったけど、一度体験して知っていたから不幸を回避する事が出来た。
 良い事は変わらないように行動し、悪い事は事前に防ぐ。
 そんな1日になって、でも少し疲れてしまい放課後の教室でうたた寝してしまう。
 近くで何か物音がして目を覚ます。辺りを見回すともう大分暗くなってて驚いて眠気も吹き飛んだ。
 その時にバサリと何かが落ちたけど、今はそれどころではなかった。
『おはよう、よく眠れた?』
 突然声を掛けられて更に驚きながらそちらを見ると、好きな人がそこに居てどこかに嬉しそうに笑っている。
『⋯⋯えっと。うん、頭すっきりするくらいには眠れました』
 混乱する頭で答えると、彼はそれはよかった、寒くない? 大丈夫? なんて気遣ってくれて、そこで先程落ちたものを確認すると私のものよりも大きなブレザーがあり、彼がかけてくれたと理解する。
 とりあえず拾って汚れを軽くはたいてから、彼にありがとう。寒くなかったですって伝えたら笑いながら、どういたしましてって言うものだから心臓潰れるかと思った。
 そのまま何故か一緒に帰ることになり、しかも家まで送ってくれた。その道中は邪魔が入る事もなく、2人だけの時間を過ごせたので傘を持ってきたことを後悔したけど、幸せな時間を噛み締める。
 そうして家に着きお礼を言って別れた。
 今日もやる事を終わらせてベッドに入ったが、眠る気はなく⋯⋯この不可解な現象を突き止めるため、日付が変わる瞬間を見てやろうと夜更かししている。
 動画見たり漫画を読んで時間を潰し、あと少しで日付が変わるという所まできた。
 変に緊張しながらも、心の中で数を数える。
 5、4、3、2、1――――――日付が変わる瞬間、わざといつもと違う位置に置いていた鞄が瞬間移動で定位置に戻り、スマホの日付も昨日のまま⋯⋯まるで何事も無かったかのように世界は同じ日を繰り返していた。

 そうして私は終わったはずの“今日”をもう一度初めるのだった。


3/12/2025, 2:26:39 PM