天津

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それでいい

4匹の子山羊は自立のため、家を追い出された。4匹はとりあえず、雨風をしのぐための家を作ることにした。
末の弟は、いかに楽して生きるかを人生の至上命題としていた。末の弟は家を、辺りでいくらでも手に入る軽量な建材である藁を用いて、さっさと建ててしまった。ついでに外にベンチを作り、兄たちの家造りを眺めていた。
「そんなのでいいのかよ」3番目の兄は、木材を組みながら言った。「台風でも来たらひとたまりもないぞ」
「滅多にあることではないさ」末の弟はのんびり答えた「ぼくらが実家にいた何年もの間、台風なんて一度も来なかったじゃないか」
「ふたりともそれでいいのか」振り向くと2番目の兄が立っていた。煉瓦を作っていたようで、全身泥に汚れていた。「藁であれ木であれ、狼が来たらひとたまりもない」
「狼こそ、ぼくらが生まれてこの方、隣村にすら出たことがないじゃないか」
「ところで兄貴はどこへ行ったんだ」2番目の兄が末の弟に訊ねた。「もう随分姿を見ていない」
「鉄鉱石を採掘しに行ったよ」末の弟は洞窟の方角を指さした。「鉄筋コンクリートの家が建てたいんだってさ」
「かなり時間がかかりそうだな」3番目の弟は、心配そうに目を細めた。
数日後、一番上の兄以外の家が完成した頃、子山羊たちの住む地域に台風が直撃した。
煉瓦の家と木の家は強風に対して持ちこたえたが、藁の家はすっかり吹き飛んでしまった。末の弟は、なくなく3番目の兄の家に身を寄せた。
台風が明け、一番上の兄は洞窟から出てきた。
なんとか台風を切り抜けた煉瓦の家と木の家だったが、あちこち裂けたり穴が空いたりしていて、弟たちは補修工事に勤しんでいた。一番上の兄は言った。
「そんな貧弱な建材で妥協するから、無駄な作業が増えるんだ。今からでも鉄筋コンクリートにしないか」
弟たちは答えた。
「だるい」「時間がかかりすぎる」「そっちこそオーバースペックだろう」
一番上の兄は、説得を諦めて作業に戻った。
2週間経っても、一番上の兄の建築は終わらなかった。2番目の兄は言った。
「しっかりした基盤はできたのだから、それでやめにしないか。あとは、余った煉瓦をあげるから、それで建てればいい」
「いやだ。俺は完璧に強固な家を建てるんだ」
「でも、隣の隣の隣の村で狼が現れたそうだぞ」木から煉瓦に乗り換えた3番目の弟は不安そうに言った。
「ここに来るまでには出来上がる」一番上の兄は確信しているようだった。「あと2週間で完成するはずだ」
1週間後、弟3匹が2番目の兄の家で夕食をとっていると、ドアがノックされた。こんな時間に誰だろうと思って覗くと、紛れもない狼だった。
末の弟は、ドアの覗き穴から槍で狼の目を突いた。怒った狼は家を激しく叩く。少しずつレンガの継ぎ目に亀裂が入るが、崩壊には至らない。しびれを切らした狼は、煙突からの侵入を試みた。3番目の兄は煙突の下に大鍋を置いた。やがて狼がすべり落ちてきたので、2番目の兄はタイミングよく鍋に蓋をし、かまどの火を最大火力にした。鍋の揺れが収まり、鍋から聞こえる咆哮が消えたあとも、念のため一晩煮続けた。
翌朝、3匹が外へ出てみると、玄関前から血の跡が点々と続いていた。辿っていくと、洞窟の中へと続いていて、見つかった一番上の兄は骨だけの姿となっていた。

2023/04/05

4/5/2023, 9:12:58 AM