かおる

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世界の終わりに君と


その日、僕たち家族は祖母の家に来ていた。
翌日に僕たちの両親が親戚の法事に参加するためである。

翌日、両親は法事に参加するため出かけた。
僕と弟は祖母と留守番だ。
静かな部屋の中、テレビの音だけが流れてる。

すると、少し揺れを感じた
『え?地震?』
その揺れは、あっという間に大きくなり
感じたことのない恐怖に襲われた

何分揺れたかも忘れたが
揺れが収まったころ
外で、どこかのおじさんが
「津波が来るぞ高台に逃げろ」と
繰り返し叫んでいる

弟に『逃げろ!高台に行くんだ!』そう伝えて
急いで外へ避難させた
祖母には『ばあちゃん、高台に行くよ。津波が来る。逃げよう』
そう言っても祖母は聞く耳を持たない
「この家にいるよ、ここがいいんだ」
そんな話をしている場合じゃない
次にまた、あんな揺れが来たら
ひとたまりもない
家も僕らも

無理やり祖母の手を引いて
高台を目指した
街の沢山の人が同じく高台を目指している
高台を登り始めたとき祖母は言った
「じいさんの遺影や通帳は持ってきたかい?」 
僕は『そんなことしてられないよ。さ、行こう』 
こう言うと祖母は
「何やってんだ、お前、取ってこい!」

ここで僕は思い出した
祖母は意地悪な人だった 
母にも辛く当たった
僕たち兄弟にも同じだった
酷い人だった
その怒りや憎しみに似た感情が
一気に沸き上がってきた 

『だったら、自分で取りに行けよ!』
僕は祖母の手を離した

そこからは一目散に高台をかけ上がった
頂上に着いて振り向くと
辺り一面、海に呑まれていた
世界の終わりのような風景が広がっている
呆然と眺めていると
引き潮が始まる

祖母の手を離した辺りには人など
いるはずもない


世界の終わりに君と


あのとき手を離したことに
悔いはない





6/7/2024, 11:36:21 AM