冬になったら
昔聞いて今も忘れられない話。
冬になったら、父に会えると思っていたの。
ほら、私母子家庭なんだけど、
父は近所に住んでいて。母の他に女がいたのね。
母は毎晩泣いて、朝になると弁当を作って私にもたせるの。
父のところに持っていくようにって。
私は毎朝自転車に乗って、
その女の家に停めてあるママチャリに弁当を置いた。
ある日たまたま酔っ払った父が出てきて、
冬になったら帰るから、と言ったの。
漠然としているけど、小学生の私はその言葉を信じて待った。
それまでは、貧乏で半袖しか着られないから
冬が大嫌いだったのに、急に待ち遠しくなった。
ずっと寒ければいいのにと思った。
もちろん父は帰って来なかった。
三十になって、父が死んだと言う知らせが来て
葬儀にかけつけたら、
父の娘は私以外に3人もいたの。
もちろん、そんなの知らなかったわよ。
向こうの人たちも、露骨に嫌な顔をしていた。
弁当を届けることが嫌じゃなかったか?
全然。時々、摘んだ花なんかも添えたりして笑。
父を憎んでいないのか?
私は今でもすごく父が好き。母もそれは変わらなかった。どうしてかって聞かれても…分からないけど、
おかげで私の人生に冬は来ないのよ。
11/18/2022, 10:47:04 AM