ヒロ

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うーあー! やってしまったあああ。
恥ずかしい! 消えてなくなりたいぃ~。

愛用のスマホを握りしめ、収まらない羞恥心を何とか霧散させようとベッドの上でゴロンゴロンとのたうち回る。
けれどもそんなことをしたところで、先程の誤送信が無かったことにはなるはずもない。
あああ、何たる失態!
時を巻き戻せるのなら、十分前に戻りたい!

帰宅して、自分の部屋でのリラックスタイム。
親友とのLINEでの雑談も盛り上がって。
夕飯やお風呂、家族の頼みごとなどを間に挟みながらポチポチと返信を繰り返すうちに、話題はお互いの好きな人の話へ移って行った。
夜も更けて、だんだん強くなる眠気と戦いながらも、それでもメッセージのやり取りは止められなくて。
眠い目を擦りながら、半分寝ぼけていたのがいけなかった。
惚気る親友のノリに釣られて、自分も、
「やっぱり絵を描いてる後ろ姿が大好きかな」
と、LOVE! のスタンプまで添えて送った後のことだった。
送信後、表示されているトーク画面を見て固まった。
親友との、トーク画面じゃ、ない。

「――!?」

しかも相手は、まさに話題に出している私の好きな人。
さあっと体から血の気が引き、続いてぶわっと体温が跳ね上がる。
「えっ何で!」
眠気は瞬時に吹き飛んだ。
慌てて画面をスクロールして確認すると、直前に彼からメッセージが届いていた。
何でもない、美術部の連絡事項に「よろしく!」のスタンプが輝いている。
彼からの送信時間は今からちょっと前。ちょうど同じくらいの時間に友人からも返信が届いている。
キラキラ点滅するスタンプを見て、漸く私は事態を把握した。
しまった。ポップアップで先にメッセージは確認していたから油断した。
親友からの方をタッチしたつもりが、間違えて彼からの通知をタッチしてしまっていたらしい。
訳は分かった。分かったところでどうしようもならない。
堪らない後悔で一杯になり、限界を越えた私はのたうち回り、冒頭の醜態に繋がるわけだ。

「ど、どうしよう」
まだ心臓はバクバクとやかましかったが、少しだけ落ち着きを取り戻した。
メッセージの削除って出来たっけ? と、もたもた操作をしていれば、残酷にも「既読」の文字が画面に追加された。
「う、嘘! 読んじゃったの!」
非情な現実に、再び私はパニックに陥る。
告白の勇気なんてとても持ち合わせていなかったのに。
既読となったまま反応もないのが心に痛い。
画面の向こうの彼も固まってしまっているに違いない。

どう取り繕えば良いのか分からないまま、ぐるぐる目も回り出した頃。
彼の復活の方が私よりも早かった。
しかも情け容赦ない。何と彼はメッセージでの返信ではなく、恐ろしいことに通話を寄越してきたのだ。
「えっえっ! う、嘘でしょ!」
狸寝入りを決め込もうとしても、着信音はいつまで経っても鳴り止まない。
つらい。死刑宣告のような展開だ。
怖くてなかなか心が決まらない。それでも何とかして覚悟を決め、恐る恐る私は通話を取った。緊張で声が震える。
「も、もしもし」
「お。良かった出てくれた。うーん、元気?」
「い、一応?」
彼の意図が分からなくて、言葉尻が疑問になる。
「そ。元気なら良かった」
「う、うん」
どぎまぎしたままの私に、彼はぷっと吹き出した。
「そんな怖がんないでよ。俺も大好きだから」
「へっ」
あまりにもさらっと告げられて、今日一番の間抜けな声が漏れる。
二の句が次げない私に、彼は駄目押しした。

「疑り深いな。だから――」

再度伝えられた言葉に、さらに顔が熱くなる。
私、ドジったショックで眠っちゃったのかな?
夢を見てるの?
いや、そんなはずはない。だって目はこんなに冴えている。
突如降ってわいた現実の甘さにクラクラ酔ってしまう。
緊張で、そのまま彼と何を話したかも曖昧で覚えていない。
また馬鹿みたいな失言をしていなければ良いけれど、大丈夫かな。
通話を切った後も何だか夢見心地で、しばらくベッドの上でペタンと呆けてしまった。
「えっと」
ふわふわした頭を何とか働かせて、ふいに親友の顔が思い浮かんだ。
そうだ。まだ彼女ともメッセージは途中だった。
気が付けば彼女から追加のメッセージが届いていた。
迷わず、そして今度は慎重に彼女とのトーク画面を開いて通話を選ぶ。
「あ。ごめん、遅くに。えっと、聞いて!」
しどろもどろになりながら、今あったことを報告すれば、スマホの向こうからたちまち彼女の悲鳴が轟いた。
質問責めに答えながら、漸く緊張も解けて笑顔が戻る。
今日はまだまだ眠れなさそうだ。


(2024/07/11 title:041 1件のLINE)

7/12/2024, 9:59:50 AM