22時17分

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夜が明けた。

全ての辻褄の合う夜が明けた。
飼い主は二〜三日後に帰ってくるらしい。
犬一匹。
人間には疲れる愛玩動物。
犬皿には水しか入っていないのを見て、誰かは心配するだろう。薄情な飼い主だと感じるだろう。
月明かりのない夜をずっとみていた犬を見て、かわいそうだと思うだろう。
餌がない。空腹である。
数日間とは言え、飼い主の帰る時間が間延びしてしまえば、危うい。このままでは餓死してしまう……

しかし、分かりやすい愛情があるように、隠された愛情というものが――微量の隠し味として――、この夜に溶けているのだろう。

飼い主が玄関から出ていってから、小型ラジオのスイッチがつけっぱなしだ。無音ではない。
人間が居れば、静音を強要されるのだが、犬一匹である。夜になったら寝なければならない、という義務を負っていない。
床には、ごみ一つとしてないほどきれいに片付けてある。掃除機で床の生活の破片をすべて吸ってしまっている。例外はない。あったとしても、掃除機を掛けたあと、歩き回って出た犬の毛以外……。
テレビのコードが抜かれてある。コンセントにつないだままだと犬が齧って感電してしまうことを防ぐためだ。テレビの方を根本として、短く束ねてあった。
夜通し電気がつけっぱなしなのは、夜が明けても、明けなくても、怖がらないようにするため。電気代を考慮するのは人間だからではなく、人間が、寝るために不必要なものを削ぎ落とすため。

ペットに対して、男親と女親では、接し方が違うという。女性は、まるでわが子のように面倒を見ようとする。比べて男性は客観的な目を持っている。
犬は、水さえ与えれば二〜三日は生きていられる強い生き物だ。犬皿にドッグフードを盛って、たらふく食わせてやろうとする意思疎通のない準備に関して、男性はする必要がないことを知っている。
それよりも、異物を飲み込む危険性を考えたほうがよい。心配だ。
その隠された愛情は、夜に溶け、それが明ける。ということは、どういうことなのか。
犬は、じっと堪えている。
帰りを待つという、基本的で本能的で、人間には難しい行為を、平然とやり遂げようとしている。

参考)相棒2−19「器物誘拐」

4/29/2025, 9:59:25 AM