ななめ

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ぴーちゃん、今日もかわいいね
誰かが言った。

教室に時折チッチッという鳴き声が響く。

ぴーちゃんは教室で飼っている文鳥で、担任の先生がある日連れてきた。

動物が大好きな私は生き物係に立候補し、同じく立候補した涼川さんと共に係に任命されていた。

次々登校してくる生徒たちはぴーちゃんに挨拶をする。

かわいい、今日も元気だね、ごはん食べたかな

私は生き物係としてはやめに登校し、一通り文鳥の世話を追えて机に突っ伏していた。

ただ時が過ぎるのを、じっと息をひそめてまっていた。

じっとりと絡みつく6月後半の空気が、私の肺に薄暗い気持ちを充満させていく。

気づくな 気づくな 気づくな


「おはよう」

机に突っ伏す私のすぐ頭上からカラリと乾いた声がきこえる。

私は震える瞼をあけ、重たい頭を持ち上げる。

「涼川さん」

彼女はビー玉みたいな瞳を私に向けている。
その眼球にうつる私はひどく怯えているようだった。

そして私の耳に顔を近づけると、梅雨なのにさらさらとまっすぐな髪を簾のように揺らしつぶやく。

「誰も気づいてないね。だから行ったでしょ、みんな馬鹿だからばれないって」

私の体内では血液が氾濫しそうなほどはやく流れているのに、世界はスローモーションみたいに緩慢に崩れていく。

昨日の放課後、鳥籠の掃除をするとき、滑った手が、思いの外強く舞って、そのまま小鳥は

「文鳥って意外と安いんだね、お小遣い足りてよかった」

涼川さんは薄い唇を引き上げてわらった。

ふたりだけの秘密だねって。


5/4 二人だけの秘密

5/4/2024, 2:43:15 AM